正昇建設の従業員だった岩本さんが突然、松尾被告に電話をかけてきたのだ。「いつまでも言うことを聞いていると思うなよ」「
外で警察が見張ってる」。

 女友だちと出かけていた松尾被告は大内被告や中里浩被告(52)に電話をかけ、岩本さんを連れ戻すように命令し、秦野市の正
昇建設に戻ってきた。

 岩本さんは中里、大内被告ともう一人に正昇建設事務所に連れ戻され、事務所に監禁された。戻ってきた松尾被告が膝蹴りを加え
た。

 従業員をチェーンソーでバラバラに…排水溝から見つかった肉片

 松尾被告の公判廷での供述によると、膝蹴りは2〜3回だったというが、岩本さんはいびきをかきだした。いびきをかくというの
は、脳に外傷的な障害を負ったときにみられる症状だ。

 松尾被告らは結束バンドや粘着テープで手足を縛り、放置していたが、17時間後に松尾被告が見たときには死亡していたという


 「皆、覚醒剤をやっていたんで発覚が怖かったんです」(松尾被告)。3人は共謀し、チェーンソーで切断。苛性ソーダに2週間
ほど浸けた後、骨片や肉片をトイレに流した。チェーンソーは福岡県内の海に捨てたという。後にトイレの排水溝からは300個以
上の肉骨片が見つかった。

 8月24日に横浜地裁で開かれた論告求刑公判は傍聴人で満員だった。だが「自首が成立する」として、松尾被告に懲役3年、中
里被告と大内被告に懲役2年6月が求刑された際には、法廷がわずかにどよめいた。

 1人の男性を死亡させ、残忍な方法でバラバラにしたものの、3人とも執行猶予判決が出る可能性があるほど軽い求刑だったから
だ。

 理由は単純だ。殺人や傷害致死を立件できなかったからだ。肉片となっては、死因が判別できなかった。

 「社長は入院したので、あとは私が…」現れた「義理の息子」

 ただ、この公判廷で上野さんの失踪について、中里被告の弁護人が「3月に社長が失踪して以来、松尾被告が実質的にトップだっ
た」と言及しただけで、ほとんど触れられなかった。

 松尾被告は上野さんの失踪について、警察にも弁護人にも言及していないようだ。

 松尾被告と会ったことがある人がこう話す。「窓のない部屋に連れて行かれましてね。怖かったですよ。一見してヤクザ者でした
し…」

 中井町の三葉の従業員寮の賃料は上野さんが失踪する少し前から滞納していて、事件発生時には150万円を超えていた。

 「社長は入院しましたので、あとは私がやります」。上野社長の義理の息子と名乗るその人物は不動産会社に現れ、そう言ったと
いう。義理の息子が差し出した名刺には「上野亮介」とあった。該当する人物は取材では浮かび上がらなかった。