スポーツ報知2024年4月15日 6時30分
https://hochi.news/articles/20240414-OHT1T51287.html

将棋界の話題を取り上げる「王手報知リターンズ」の第9回は、漫才コンビを組み、将棋界からM―1グランプリ出場を目指す谷合廣紀四段(30)と山本博志五段(27)が登場。東大大学院情報理工学系研究科修士課程修了で寡黙な谷合と、江東区の下町育ちで明るい山本が、漫才未経験ながら「銀沙飛燕(ぎんさひえん)」のコンビ名で、スポットライトの当たるセンターマイクの前に立つ。(瀬戸 花音)

「つかみはどうしようか」「このボケ伝わるかな?」―。都内のハンバーガーショップで、谷合の書いてきたネタを見ながら、アイデアを出していく山本。2人が目指しているのは、M―1。そんな2人の職業は将棋の棋士である。

きっかけは1年3か月ほど前にさかのぼる。2023年1月、東京・将棋会館の廊下で谷合と会った山本は「あけましておめでとうございます」の後、「僕、(M―1に)人生で一回は出てみたいんですよね」と続けた。

山本(以下、山)「正月ってM―1の興奮がまだ冷めやらぬ感じなので言ってみたら、谷合さんが意外にも『俺もなんだよね』って。棋士にとっても意外とメジャーな夢だったんだなあって」

山本にとっては冗談交じりの言葉だったが、“誤算”があった。谷合は東大将棋部時代の仲間が吉本興業にマネジャーとして勤めている関係で、文化人枠として吉本に所属していたのだ。

山「谷合さんが吉本に所属しているのをうっかり忘れていた(笑い)。吉本のYouTube『と金チャンネル』にも出て、宣言しちゃう形に…」

谷合(以下、谷)「ここまできたら後戻りできないようにしてやろうって思って(笑い)。行動しないと始まらないから。言うだけなら簡単だけど」

意外にもお笑いに本気だったのは、寡黙に見える谷合だった。お笑いにはまったのは東大受験を控えた11年のこと。同年、棋士養成機関「奨励会」でプロ入り一歩手前の三段に昇段した。対局で大阪遠征の後、東京に戻って予備校に通うような日々の中で、唯一の癒やしがコントグループ「ラーメンズ」だった。

谷「その時に一日に一本だけ、ラーメンズのコントは見ていいってルールを決めたんです。(同じ映像を)何周もしました。次の展開が分かってても笑える。もう次のセリフで何を言うか全部覚えてるんですけどね(笑い)」

結果として、谷合は現役で東大理科一類に合格した。一方、山本がお笑いを好きになったのはプロ入り後、もがいている時だ。お笑いは2人にとって、希望の光であった。

山「将棋は、自分が好きだった『自ら発想を編み出して、人間だけの力でやっていくやり方』が主流じゃなくなってきた。まずAIに聞いて、AIの示す定跡が主流になった。それがちょっと思った以上につらくて、芸人さんはそこから全く乖離(かいり)した世界じゃないですか。人間の発想だけでやってるから。そこに対する憧れですかね。すごく輝いて見えたんです」

2人はもう相方である。個人戦の将棋界の中で、互いに互いを認め合っている。

谷「山本さんは明るいですよね。いろんな人と仲良くできるタイプ。将棋も自分は受け将棋で、山本さんは攻め将棋。正反対とは言わないけど、自分が持っていない良さがある」

山「似ているところもありますよね? 2人とも文章で表現するのが好きとか、振り飛車党とか。谷合さんはAIに精通しながらも(AIでは評価されない)振り飛車を指したり。将棋は全然定跡系じゃないし、理論的じゃない(笑い)」

ネタは将棋関連の内容にするつもりだ。将棋を知らない人にも笑ってもらえるように試行錯誤を繰り返す。コンビ名は「銀沙飛燕」。名付けたのはそろって交流の深いトップ女流棋士・西山朋佳女流三冠(28)=白玲、女王、女流王将=だ。

山「将棋に関する名前がいいなって思っていた。東京の将棋会館には『銀沙』と『飛燕』って名前の対局室があって、西山さんが『銀沙飛燕どうかな?』って。銀沙と飛燕は奨励会の有段者がよく指す部屋で、僕らの思い出もたくさん詰まっているのでいいなって思いました」

2人は棋士である。これまで直接対決もしてきた。直近は今年2月。まさに「銀沙」での対局だった。その時は谷合に軍配が上がった。

山「これが天下分け目の一番だったんですよ。あれで負けたので、コンビの上下関係でいったら僕が下。谷合さんのいうことは聞こうって。作戦負けから粘って粘っての将棋で…」

谷「いやあ、あの日は疲れたよ」

山「将棋では負けたくないっていう気持ちは常にあります」

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