比嘉展玖2024年1月16日 6時00分

 1987年1月、東京都千代田区にある警視庁本部庁舎の会議室に、幹部から若手まで職員数十人が集められた。37年前の当時、進められていた「極秘」プロジェクトだった。

 同じころ、都内にある広告会社でも20代の社員3人が頭をひねっていた。3人には「親しまれ、信頼される警視庁」というテーマが与えられていた。

 その1人は武蔵野美術大学教授の上原幸子さん(64)。「警察の堅いイメージをどう払拭(ふっしょく)するかが課題だった」と振り返る。

 プロジェクトは、警視庁のシンボルマスコットの導入だった。

 日本犬やニホンカモシカなど日本固有のものをモチーフに。いや、やはり架空の生き物が。警視庁の頭文字「K」や警察官が身につける記章の形をしたものがいい――。クライアントである警視庁からの要望や意見は多岐にわたった。

 上原さんらが描いた原案は100体ほどになった。警視庁と何度もやりとりし、「かわいくて革新的なデザイン」を探っていた。

 人間のようで人間ではない長い耳と大きな瞳。頭の真ん中からはアンテナが伸びる。上原さんの中で生まれたのが、色々な動物の愛らしい部分を集めた生き物だった。ペンを動かしながら、心の中でつぶやいた。

 「かわいい」

 最終的に上原さんの案が採用された。後に聞いた話では、複数の案の中、当時の鎌倉節(さだめ)・警視総監がそのひとつに目をとめて、「これだ!」と叫んだという。

 87年4月17日、警視庁でのお披露目会見で、「ピーポくん」が誕生した。

https://www.asahi.com/articles/ASS1H3JQPS19UTIL011.html