2023/11/07 05:00
 日本を代表するSF作家で旺盛な執筆活動を続けてきた筒井康隆さん(89)が、掌編小説集『カーテンコール』(新潮社)を刊行した。
得意とする不謹慎ギャグやドタバタ劇など、多種多彩な25編を収めた。自宅で取材に応じた作家は「これが最後の作品集だから」と衝撃的な一言を口にした。(文化部 池田創)




思った通りに書く

 着物姿で現れ、いろりの前にゆっくりと座った。「10枚ぐらいのものしか書けなくなってしまってね。もう身の回りはきちんとしなければということで、エンタメでまとめてみた。これが最後だから、ばあっとバカ売れしてほしいね」と笑う。

 新刊は2020年以降に文芸誌などに発表した作品を収録した。タイムリープした古代人が現代の美食に魅せられる「美食禍」、新型コロナウイルスが拡大する社会を風刺した「コロナ追分」など、ブラックユーモアの中に、人間が抱える孤独や寂しさを織り込んでいる。

 「プレイバック」は、『時をかける少女』の芳山和子や『文学部唯野教授』の唯野仁など、自身が生みだしたキャラクターたちが病床の作者を訪れ、作品や作者批判を繰り広げる。後半には日本のSF界をともに支えた星新一さんや小松左京さんら巨人たちもやってくる。

 「小松さんは良くも悪くも『親分』で、全部自分の手柄にしたがった。パーティーで『これこれを先にやったのは私です』と言うんだよ」と懐かしそうに語る。

 常に新しい文学表現に挑戦し続けてきた。『虚人たち』で小説内の時間を実験的手法で表現し、新聞に連載した『朝のガスパール』は読者投稿を反映させながら物語を書き進めた。一文字ずつ言葉が消えていく世界を描く『残像に口紅を』は近年SNSなどで話題となり、若い世代を中心にファン(通称「ツツイスト」)を増やした。

 「『これは書いたら面白そうだ』と思ったら、大抵書いている。小説家には、真面目さが必要と考えるのはおかしい。コロナについても、作家なのに何も言わない人もいる。作家やめろって思うよね。思った通りに書けばいいんです」





死は仕方ない
 https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/articles/20231106-OYT8T50167/