コンプライアンスは、「法令遵守」ではなく、「組織が社会の要請に応えること」
法令の趣旨目的を理解し、背後にある社会的要請を知ること
「社会の要請に応える」という観点から、今回のジャニーズ事務所の問題について、どのように対応していくべきだろうか。
まず、被害者の救済が最優先であることは当然だが、前記のとおり、その性被害の認定は、一方当事者が死亡しているために困難を極める。報道されている性被害の中には、ジャニー氏本人にジャニーズ事務所のタレントとしてデビューを約束されて性被害に遭い、そのまま約束が果たされず、ジャニーズ事務所に所属することもなく夢を断ち切られたという事案もあるようである。このような事案では、本人の被害申告を裏付ける客観証拠は全くない。だからと言って、「証拠の裏付けのない性加害は賠償の対象外とすること」は許されないであろう。裁判官出身者3人の名前を並べた被害者救済委員会での判断は、どうしても「通常の裁判的判断」に近いものになる可能性があり、本件での被害者救済に適したものなのかどうかも疑問がある。そういう意味で、まずは、被害者の救済という社会の要請に応えていくことが必要だが、それを実行していくことも決して容易なことではない。
このような性加害事実の特定・認定が困難な状況に至っているのは、ジャニー氏の悪質重大な性加害行為が長年にわたって問題とされることがなかったからであり、その背景には、ジャニーズ事務所の組織自体の問題に加え、芸能プロダクションとテレビ業界、広告代理店業界との関係に関わる問題もある。そのことも、今回の問題の一つの本質と言えるであろう。
そして、芸能界における巨大権力者による性加害という重大な犯罪事実に対して「メディアの沈黙」が続いてきたことの背景に、日本のメディアが、一般的に、権力に対して極めて脆弱だという問題もある。
今回の問題は、日本の社会の様々な構造的問題に関連する「巨大不祥事」と言えるのである。

ジャニーズ事務所・会見、“危機対応”において「不祥事」が発生した原因とは
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/997178f114599a30dcd38203b77395b293d9aeb9