仁科友里(ライター)
週刊女性PRIME
2023/9/14
https://www.jprime.jp/articles/-/29306?page=3

(略)

 まず、東山に性加害を受けたかどうかをたずねた女性記者がいましたが、この質問は何のためなのでしょうか。今回の問題は事務所の創業者が、自分の優位な立場を利用して未成年への性加害を行ったこと、その事実を訴えた書籍、認めた裁判判決があるのにも関わらず何十年も報道されなかったことであり、被害者が誰であるかは本質とは関係ないはずです。

▫「あなたも性被害に合いましたか?」ヤバすぎる質問

 また、今回のケースは性加害をしたのが男性で被害者も男性でしたが、この女性記者は、被害に合ったかもしれない女性を前にしても「あなたも性被害に合いましたか?」と聞いたのでしょうか。おそらく聞かないと思います。なぜなら、女性にこんなヤバい質問をしたら「セクハラだ」とSNSが黙っていないことは目に見えているからです。

 それでは、なぜ記者がこんな質問をしたのか。それは、日本を代表する芸能事務所として長いことご威光を放ってきたジャニーズ事務所ですが、今はちょっと分が悪いので、何を言われても反論できず、丁寧に答えてくれる。それがわかっているから、あえて“口撃”をしかけたのではないでしょうか。けれども、この女性記者のやり方が完全に間違っていると私には言い切れません。こういう失礼な聞き方やパフォーマンスが話題となり、数字(PV)を稼ぐことがあるからです。報道としてはアウトでも、ビジネスとしてはアリなわけです。喜多川氏は少年の鼻先にデビューという名のにんじんをぶらさげて毒牙にかけ、一方で人気タレントを多数有していることを理由に、テレビ局をはじめとしたメディアを支配してきましたが、相手の持つ数字や立場によって態度を変える、やり返せない人には強く出るというマスコミのやり方もまた、ジャニーズとそう変わらないと言えるのではないでしょうか。

 社長が誰かよりも、今回考えるべきことは、テレビ局と芸能事務所の距離だと思います。「週刊新潮」によると、「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)のプロデューサーが、他事務所の男性アイドルを同番組に出演させるか迷っていると、喜多川氏は「出したらいいじゃない、ただ、うちのタレントとかぶるから、うちは出さないほうがいいね」と番組からの撤退をほのめかされたといいます。誰を番組に出すかを決めるのはテレビ局側のはずなのに、なぜ事務所にお伺いを立てるのか。それは、出演をテレビ局と事務所の二者で決めているからでしょう。こうなると、強いほうが弱いほうに無理を言っても言い分が通ってしまう。ですから、仕組みを変えて、癒着を防ぐ構造にしたほうがいいと思いますが、おそらく、なされたところで、あまり話題にならないのではないでしょうか。

知らず知らずに担いでいた悪の片棒

 現在、数字を取るのは、叩き要素のある記事だと思います。なので、人をイライラさせる芸能人、知名度の高い人、もしくは権力者の不祥事は好まれますし、SNSでは悪者探しの議論がよく見受けられます。はっきりした悪者がいない、つまり、数字が取れない記事はビジネスとして成立しませんから、取り上げられなくなり、人の興味を引かなくなるから誰も立ち上がらず、問題は放置されるという悪循環に陥ってしまいます。

 今回の件で責められるべきは喜多川氏一人だと私は思いますが、忖度、空気の読みすぎ、性暴力への意識の低さなど、知らず知らずのうちに、誰もが少しずつ悪の片棒をかついだ結果、60年も前から指摘されていた未成年の性加害を放置してしまった。ジャニーズ問題は、日本社会のヤバさの集大成なのかもしれません。