私が語る「日本サッカー、あの事件の真相」第22回
日本一のサイドバックを目指した男の矜持〜加地亮(2)

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 迎えたクロアチア戦、加地は大会前のドイツ戦以来のスタメン復帰を果たした。だが、右足首の痛みは引いていなかった。前日の練習では痛み止めのクスリを飲んでプレーしたが、ほとんど効果がなかった。

「(試合当日は)痛み止めの注射を打ってもらった。感覚はなくなったけど、久しぶりに痛みがないなかでサッカーができるんで、それって『幸せなことやなぁ』って思いましたね」

 クロアチアも、日本も初戦を失っており、ともに負けられない試合は非常に堅い展開になった。前半21分、宮本恒靖が相手FWを倒してPKを取られたが、川口能活が好セーブ。失点を回避した。

 流れは日本に傾いたが、ゴールを割るチャンスはなかなか訪れなかった。最大のチャンスは後半6分だった。高原直泰とワンツーでペナルティーエリア内に抜け出した加地がゴール前の柳沢敦に決定的なパスを出した。が、柳沢が右のアウトサイドで合わせたシュートはあえなく外れた。

「ヤナギさん(柳沢)に出したのはクロスじゃなくて、シュートです。シュートの意識で打ったんですけど、当たりどころが悪くて、かすった感じになった。『うわっ、やばっ、ミスった』と思ったら、真横にボールが飛んでいって、フリーのヤナギさんのところにいった。

 ヤナギさんは『急に(ボールが)きた』って言ってましたけど(苦笑)。自分は(そんな柳沢を見ながら)目の前にGKがおらんのに、なんで外したんやっていう顔をして、ポジションに戻っていきました。自分のシュートミスなのに、ヤナギさんのミスみたいになって『ごめん』って感じでしたね」

 大会後、柳沢とプライベートで会った際に「あれって、(世間では)クロスみたいに言われているけど、シュートだよね」と聞かれたという。加地は正直に「シュートです」と言うと、柳沢は「そうだよね」と苦笑していたそうだ。

 クロアチア戦は大きな波が訪れることなく、淡々と進んでいった。そうした状況のなか、加地は(日本代表の)プレーがすごく淡泊に感じられた。

「どっちつかずの状態で、我慢強く戦うことが求められた試合だったけど、(結果的に)打開できなかった。

 日本には、うまい選手がそろっていました。みんな、めちゃくちゃ技術レベルが高くて、すごいなって思うんですけど、きれいすぎるんですよ、プレーが。世界と戦って点を取るには、もっと人のために泥臭く動ける選手、汗をかく仕事ができる選手が必要だった」

 ジーコジャパンには2002年日韓W杯で奮闘した戸田和幸や明神智和のような、人のために"汗をかく"選手がいなかった。ジーコが選出した選手の多くは、技術が高く、それを前面に押し出すプレースタイルの選手が多かった。

 そのせいか、きれいに崩そうという意識が攻撃面では如実に表れていた。アジアではそれも可能だったが、世界相手のW杯ではそれは通用しなかった。

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https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jfootball/2023/06/20/post_53/