東京六大学リーグ、春季リーグ戦が始まった。早稲田大学野球部は東京大学に9-1、14-1と連勝。続く立教大学にも8-2、11-3と完勝した。このうち立教2回戦では印象的な一幕があった。早大の打者が四球を選んだ際、ベンチに向かってガッツポーズをしたのだ。野球の世界では一般的に、相手のミスに対して感情をあらわにすることは「マナー違反」とされる。実際に、観客からは苦言のやじが飛んだ。だが早大野球部・小宮山監督は、このガッツポーズを認めた。それはなぜか――。(作家 須藤靖貴)

●早大打線が絶好調 4戦終えて5割打者が2人
投打がかみ合っての開幕4連勝だ。小宮山悟が母校・早稲田大学野球部の監督に就いて以来、連続勝ち点奪取は初めてのことである。

例年はこの時期に、いささか芳しくない雰囲気があった。小宮山が就任当初の2019年春には開幕の東大戦に連勝したあと明治に連敗。2021年春は東大に1分けを喫し、続く立教戦で連敗している。

今春はそんなイメージを完全払拭した。寒の戻りでやけに風が冷たい神宮球場。東大戦も立教戦も寒かった。それでも、応援部の力強い鼓舞も相まってスタンドは熱気を帯びた。

得点のたびに繰り返される『紺碧の空』。この寒い中、早稲田サイドの応援席では生ビールで祝杯を挙げる御仁の姿も多く見られたのだった。

監督が「今シーズンは期待できる」と語気を強めていた投手陣がいい。エース・加藤孝太郎を中心に堅調。1試合の平均失点は1.75である。

そして打線が元気。とにかくよく打つ。4月25日の時点で、打撃成績の上位5位までを早稲田が独占している。

1位熊田任洋(.533)、2位尾瀬雄大(.526)、3位印出太一(.471)、4位中村将希(.438)、5位山縣秀(.375)。そして10位に小澤周平(.353)、15位には、4月22日の立教1回戦で2本塁打を放った野村健太(.286)。打線はどこからでもチャンスを作ることができる。

1番センター尾瀬、7番サード小澤の2年生二人が好守に溌溂(はつらつ)としている。ともに層の厚いポジションでの抜擢。上級生のケガなどのアクシデントもあってのスタメン起用である。二人は監督の期待に応え、チャンスを確実につかんだのだった。

ベンチのホワイトボードには小宮山監督が書いた「好球必打」の文字がある。その通り、初球からガンガン振っていく。送りバントも初球からきっちり決める。その様は小気味よく、「ブレーキ感」なく打線が躍動した。

だが熱心なファンの要求は高い。温かいコーヒーで暖を取りながら背を丸めて観戦していると、時折辛口の叱咤が聞こえてくる。

4月23日の立教戦2回戦、初回の早稲田の攻撃の時。5番吉納翼が四球を選んだ。一塁へ向かおうというそのときに、バットを投げながら、ベンチに向かって拳を上げガッツポーズを取った。

この光景に、バックネット裏に陣取っていた早稲田ファンから「四球でガッツポーズするな」との苦言が……。相手のミスに喜ぶのは良くない、というわけである。それを耳にし、「まあ、そうだろうな」と私もうなずいた。
 
ところが、これを小宮山監督は是認した。一体なぜか。

●早大野球部・小宮山監督が 「四球でガッツポーズ」を認めた訳
小宮山監督はこの四球を、「ヒット以上の価値がある」と称賛した。

「2ストライクを取られるまでは好きな球をフルスイング。好球必打でいい。ただし追い込まれたら粘る。フォアボールを視野に入れて、ファウルを打ってしぶとく食らいつく」

そう指示を出していた。投手心理を勘案しての打撃戦略である。

「同じ出塁でも全然違う。クリーンヒットを打たれたとき、ピッチャーはやられたな、と思う。仕方ないと気持ちを切り替えて次の打者へ向かう。しかし、簡単に2ストライクまで追い込んでフォアボールを選ばれると、心底がっくりくる」

粘っての四球はヒット以上の価値――そう小宮山は部員に教え込んだのだった。だからこそのガッツポーズなのだ。

そういった打者のしぶとい姿勢が徹底され、ここまでの早稲田打線はあっさりとアウトになることが少なくなったのである。

投手起用についても、監督采配が図に当たる。立教との1回戦、エース加藤から抑えの伊藤樹のリレーで危なげなく勝利。

そして翌日の2回戦の先発は――4年生の飯塚脩人。

スターティングラインナップを告げるアナウンスに、立教ベンチもスタンドの早稲田ファンも驚いたはずである。

飯塚は千葉・習志野高校時代に2度の甲子園出場を果たし、侍ジャパンU18代表にも選ばれている。いわば鳴り物入りで入部した逸材だ。だが1年時からケガに悩まされ、長く雌伏の時を過ごした。

※以降引用先で2023.5.4 4:30
https://diamond.jp/articles/-/322329