3月9日に開幕する野球世界一決定戦「ワールド・ベースボール・クラシック」(以下、WBC)」に、全世界でオンラインストアなどを展開する「Amazon」(以下、アマゾン)が電撃参戦する。会員プログラムの一つでアマゾンが提供、運営する動画配信サービス「プライム・ビデオ」が野球日本代表「侍ジャパン」の全試合と準々決勝、準決勝、決勝のライブ配信を行う。当初、サッカーW杯カタール大会の全試合を配信して存在感、知名度を一気にあげた「Abema」がWBCの独占配信を行うことが確実視されていたが、WBCの公式戦については「プライム・ビデオ」が配信する。その背景に、昨年6月、プロボクシングの井上尚弥-ノニト・ドネアの試合中継での大成功があったという。

(中略)

「地上波のTV放映はテレビ朝日とTBSになりました。具体的な金額は守秘義務があり明かせませんが、放映権料はサッカーのW杯(1試合換算・約5億円)よりは安いという金額です」

同担当者は「なぜ、W杯より安いのか、わかりますか?」と、逆に質問をなげかけてきた上で、こう続けた。

「広告代理店の世界では、昨年末のカタールW杯が終わって、日本ではWBCよりもサッカーW杯の方が視聴者数が上回る、という判断になりました。サッカーW杯は欧州、南米、アフリカも含めて全世界で見られますが、WBCはおもに日本とアメリカに限定されるからです。今回のWBCも、サッカーW杯を中継した場合に期待できる視聴者数に到達するのは厳しい、と見ています」(同)

ではそんな状況なのに、なぜアマゾンはあえてWBC放映権獲得に動いたのか。

それは「全世界でアマゾン・プライムの会員数が約2億人いる」(アマゾン関係者)という顧客数が圧倒的な強みがあるからだ。

サッカーW杯カタール大会については、Abemaが総額200億円(推定)で全64試合の無料生配信を実現。今年1月に発表した決算では、2023年9月期第1四半期(10月から12月)は124億円の営業損失を計上したものの、認知度は急激にあがり、同社の時価総額が一気に400億円も増えた。W杯期間中のWAU(1週間の視聴者数)を「過去最大の3409万人」だったことを発表。これは昨年、同じ12月に放送されたNHKの紅白歌合戦の第2部の平均視聴人数3377万人(ビデオリサーチ調べ)より多い。

「大谷やダルビッシュというスターの参戦で、多くの視聴者数は確実に期待できる。これまではTVの独壇場だったスポーツ中継を資金力があるアマゾンさんが配信することになったのは、もはや時代の流れですよ」(前出の大手代理店スポーツ担当)

アマゾン内部では放送前から手ごたえを感じている。

「確かにスポーツ配信ではAbemaさんやDAZNさんなどライバルは多いですが、勝算しかないんです。うちは配信だけではないですから」(アマゾン関係者)

サッカーW杯を中継したAbemaは完全無料配信だった。アマゾンは月額500円(年間4900円)徴収する。番組の配信だけではなく、配送特典や音楽配信など幅広いサービスを用意していることを「強み」に考えている。

長年広告代理店でスポーツ大会の放映権料を担当している別の関係者はこう語る。

「アマゾンさんがWBCの配信をすることでこれからのスポーツ中継は一気にいろんな形に変わっていく。とっくの昔にTV1強ではなくなりました。そして配信サイトも淘汰される時代がやってきます」

その動きはすでに欧州で始まっている。今年1月にアマゾンとDAZNが配信パートナーシップを結んだことが発表され、スペインとドイツではプライム・ビデオ内でDAZNの視聴が可能になっている。日本での具体的なサービス内容は年内に発表される見通しだ。

日本が世界に誇る井上尚弥の拳がアマゾンの背中を押し、日本ではメジャースポーツの野球への参戦を後押しした。サッカーW杯で一気に存在感を高めたAbemaとともに、アマゾンが日本のスポーツ中継を牽引するのは時間の問題だ。

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FRIDAYデジタル 2/23
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