現代ビジネス7.14
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/97480

 「テレ東伝説」に新たなる1ページが加わった。

 7月8日、奈良市内で応援演説中だった安倍晋三元総理(享年67)が、山上徹也容疑者に銃たれて亡くなった。この凶行を受けて、事件当日はNHKを筆頭に民放キー局が夜遅くまで緊急報道特番を放送した。

 ところが、テレビ東京だけが夕方過ぎから通常通りレギュラー番組を流し続けたのだ。ちなみに、各局が銃撃事件について続報を伝えている最中、テレ東が流していたのは主にアニメ番組だった。

 「各局が、昼の情報番組や通常のGP帯(午後7~11時)の番組を報道特番に編成し直すなか、テレ東はアニメ『パウ・パトロール』『妖怪ウォッチ』『ポケットモンスター』、そしてバラエティ番組『所でナンじゃこりゃ!? 』を放送しました」(芸能ライター)

 この事態を受けて、ネット上では「一服の清涼剤になった」「小さな子供がいる家庭にとって助かった」などと、テレ東の「決断」に賞賛する声が上がっている。

「見てください、この立派なカニ…!」
 「社会を震撼させる事件や事故が発生しても、報道特番を長々と放送しない。テロップや短いニュース番組でおおまかな内容を報じ、基本は通常のレギュラー番組を編成する。これまでテレ東は、どんな大きな事件が起きても、丸一日特番を流すようなことをせずに、淡々とアニメや通販番組を流してきた歴史があります。

 たとえば、他局が一斉に『北朝鮮がミサイルを発射しました』という内容のニュースを報じている最中、テレ東にチャンネルを変えると『見てください、この立派なカニ…! 』などとカニを紹介する通販番組が流れているんです。重苦しいニュースばかりで滅入った視聴者にとっては、救いにすらなっていたのではないでしょうか」(大手スポーツ紙デスク)

他局の報道特番に「圧勝」
 そんなテレ東が、報道特番を編成して他局と足並みをそろえたことはあるのだろうか。前出の大手スポーツ紙デスクはこう解説する。

 「1991年1月の湾岸戦争、1995年の1月の阪神・淡路大震災、1995年3月の地下鉄サリン事件の発生時にも、アニメや通販番組のレギュラー放送を行っています。テレ東がこの数十年で、他局と同じように報道特番を編成して流し続けたのは、『昭和天皇崩御』と『東日本大震災』くらいです」

「伝説」のウラには「懐事情」が
 そもそも、なぜテレ東は基本、大きな事件や事件が発生しても、大規模な報道特番編成を行わないのか。この背景にはやむを得ない事情もあった。

 「まず、テレ東には報道局のスタッフが30名くらいしかいないことが理由に挙げられます。NHKは1200人、他キー局は150~200人と、割ける人員に差がありすぎるのです。突然、大きな事件が起きても、他局ほど十分な対応ができない。

 仮に報道特番を編成しても、放送するはずだったレギュラー番組のファンから多数の問合せがかかってきます。このとき対応できるスタッフが足りていないという問題もある。テレ東には『視聴者センター』という部署が存在するのですが、常駐のスタッフが少なく、緊急時は電話対応に手が回らないんです。

 また、報道特番を一つ制作するだけで、何億円単位のお金が飛んでいきます。ただでさえ、コロナ禍による不況でスポンサー収入が減っていますから、経済的にも報道特番を作ることが難しいのです」(テレ東関係者)

 何はともあれ、今後も「テレ東伝説」に注目していきたい。

 ちなみに気になる視聴率だが、実に興味深い結果が出ている。

 「『パウ・パトロール』は0.7%、『妖怪ウォッチ』は1.1%、『ポケットモンスター』は1.9%だったのに対して、『所でナンじゃこりゃ!? 』のみが8.9%と高視聴率を叩き出したんです。

 裏番組ではNHK『ニュース7』が15.4%、日テレ『NNN news every.特別版』が8.6%、テレ朝『報道ステーション』が5.3%、TBS『Nスタnews23緊急特別番組』が5.1%。フジの『FNN緊急特番』が4.8%。

 つまり、民放キー局の中ではテレ東が圧勝だったんです。普段のテレ東にしたら5~6%台の放送枠。報道特番を流さなかったのは、視聴率の面で言えば大成功と言っていいでしょう」(事情通)