毎日新聞2022/5/29 09:12
https://mainichi.jp/articles/20220529/k00/00m/040/033000c

 昭和がまた、遠ざかっていく気がする。

 旧川崎球場時代から使われてきた富士通スタジアム川崎(川崎市川崎区)の照明塔3基について、同市は7月から撤去を始める。数々の名勝負を彩ってきた遺構が姿を消す。

 川崎球場は1952年の開場。大洋やロッテの本拠地ともなったが、閑古鳥が鳴く時期もあり、観客席で「流しそうめん」をするファンの姿が話題になることも。しかし王貞治選手の通算700本塁打(76年)、張本勲選手の通算3000安打(80年)などの歴史的な節目の舞台にもなった。中でも、時間切れ引き分けという幕切れで近鉄逆転優勝の夢が砕かれた88年10月19日のロッテ対近鉄のダブルヘッダーは、多くのファンの記憶に残る。

 老朽化が進んだ球場は2000年に閉鎖され、スタンドが解体された。もっとも現施設に生まれ変わった際、6基あった照明塔のうち3基は残され、現在もアメリカンフットボールの試合などで使用されている。しかしその照明塔もさびが目立つようになり、市は安全性の問題などから撤去を決めた。

 幼い頃、父に連れられて王選手の本塁打を見たという富士通スタジアム川崎の田中育郎支配人にとっても「ここは大切な思い出の場所」。市はモニュメント化を検討中だが「できればこのまま残してほしかった」。その思いが届かなかった今、「少しでも多くの人に見ておいてほしい」と切に願う。残された時間は、あとわずかだ。【高橋秀明】