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2022年03月24日
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 ロシアのウクライナ侵攻がプーチン大統領の蛮行であることは、論をまたないだけに、反プーチンの立場を鮮明にしない言動は、世界中で反感を買っている。

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 男子フィギュアスケートの元ロシア代表でトリノ五輪の金メダリスト、エフゲニー・プルシェンコ氏(39)は、国際スケート連盟などのロシア人選手排除に対して2日、「スポーツと政治を混同してはいけない」「私は大統領を信頼している」などとインスタグラムに投稿。6日にも「私はロシア人であることを誇りに思っている」「人種差別をやめろ」等々、書き込んだ。

 むろん投稿のたびに世界中から反論が殺到し、炎上しているのだが、国際部記者によれば、やむをえない事情もあるという。

「ロシアの上下両院は4日、ロシアへの制裁を支持する行為に、最長3年の禁錮刑を科す法案を可決。ロシアを生活や活動の拠点とするかぎり、正論を発信するとリスクが生じます」

 とはいえ、せめて沈黙を守ってほしいものだが。

■世界的指揮者は国外全てのポストを失い…

 では、この人はどうか。ロシア出身の世界的な指揮者で、プーチンとの深い関係が指摘されてきたワレリー・ゲルギエフ氏(68)。ロシアの侵攻に距離を置くよう求められながら、反応を示さなかったため、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を解任されたばかりか、国外のすべてのポストを失った。

「ソチ五輪開閉会式でも指揮したゲルギエフは、プーチンの国威発揚の一角、芸術大国ロシアの顔。自分の飛躍を支えたプーチンを批判したりすれば、どんな粛清が待っているかわからず、態度を表明できないのでしょう」(ある音楽評論家)

■もっと大きな犠牲にも

 しかし、だからこそ声を上げることに価値があるのではないか。京都大学名誉教授の中西輝政氏は、

「プーチン擁護者の言論を理由に、彼らに不利益を与えたりすれば、ロシアと同じ社会になってしまう」

 と断りながら、言う。

「ロシア国民が表立ってプーチンを批判できないのは理解できるし、受ける罰を考えれば責められませんが、もう少し勇気をもってほしいと思うのも確かです」

 一方、この人は立場もなにもない。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」で、コメンテーターで同局の玉川徹氏が、「ウクライナが退く以外に、市民の死者が増えていくのを止められない。死者が増えないようにすることも指導者の大きな責任」などと発言し、太平洋戦争で降伏を拒んだ日本軍まで引き合いに出したのだ。中西氏が指摘する。

「一刻も早く停戦し、これ以上犠牲を増やしたくないという感情はよく理解できますが、そのためにウクライナの完全譲歩を求めるのは個人の感情論といわざるをえません。今後の状況をよりよい方向に向わせるには、法の支配や道徳的要請も加味した両国の歩み寄りが必要です。太平洋戦争は大切な教訓で、いたずらに死者を増やすべきではありませんでしたが、犠牲があるから抵抗しないという姿勢が、もっと大きな犠牲につながることもある。第2次大戦中のユダヤ人迫害は、無抵抗に終始した結果がホロコーストにつながり、その反動が、いまのイスラエルの武力至上主義です」

 テリー伊藤氏も同様に発言し、ウクライナ人から「抵抗しなければ祖国がなくなる」との悲憤の反論を受けた。彼らにとって降伏は祖国の喪失を意味することに、思いを致すべきだろう。

特集「プーチンの断末魔」より