◆コラム「大塚浩雄のC級蹴球講座」

 W杯アジア最終予選のオーストラリア戦、ベトナム戦のメンバー27人が発表された。会見で、日本代表・森保一監督(53)は「W杯にいきたいという強い気持ちで勝利をつかみ取りたい」「試合の入りから受けずにアグレッシブに戦いたい」と勝利にこだわるコメントを連発した。

 出場権をかけた大一番。「サウジアラビアに2敗目を喫した時点で、毎試合大一番だった。常にプレッシャーを乗り越えてきた」と森保監督。残り2試合を残し、オーストラリアとの勝ち点差は3。最終戦がホームでベトナムと対戦することを考えれば、引き分けでも十分優位な状況だ。

 しかし、オーストラリアに負ければ形勢は逆転する。日本は得失点差で4点以上離されて3位に転落。2位オーストラリアの最終戦はホームでのサウジアラビア戦。もし、サウジアラビアが次のホーム中国戦に勝って出場権を獲得すると、サウジのモチベーションは? オーストラリアとしては勝ち点3を積み上げる大きなチャンスとなる。

 アウェーでの戦いは難しい。欧州組は移動と時差との戦いを強いられる。オーストラリアも同じだが、日本の方が欧州組の依存度が高い。日本サッカー協会の反町康治技術委員長は「なるべく早く、個別に現地入りする。今のところ、2日にわたって準備できる」と説明した。わずか2日。コンディショニングが精いっぱいだ。

 満員の大観衆も大きなプレッシャーになる。オーストラリアは勝つしかないわけで、戦い方ははっきりしている。立ち上がりからかさにかかって攻撃してくるだろう。これに対して、受けにまわれば一方的な試合になりかねない。真っ向勝負。だからこそ森保監督は「勝ちにいく」ことを宣言し、メッセージを発信したのだ。

 マスコミを活用することも戦略のひとつ。93年W杯アジア最終予選、オフト監督もそうだった。韓国戦に1―0で快勝し、4戦を終えて日本は首位に立った。一通りの取材を終えた後、オフト監督に呼ばれ「頼みがある」と告げられた。「明日からは、韓国戦を振り返るのではなくイラク戦に向けた質問を積極的にしてほしい」

 いかにして切り替えて最終戦に集中させるか。宿敵・韓国に勝った時点で、日本から駆けつけた報道陣はお祭り騒ぎとなり、もはや悲願のW杯切符は確実…という雰囲気が漂っていた。オフト監督はそのムードが選手に伝染することを恐れていた。北朝鮮戦に3―0大勝の直後も得失点差を念頭に「あと2点は取らなければならなかった」と振り返った。韓国戦後も「この勝利はもはやヒストリーのひとつでしかない。まだ何も手にしていない」と言い切った。

 1993年10月28日、ありとあらゆる準備を整え決戦に挑んだオフトジャパン。それでも「ドーハの悲劇」という信じられない結末が待っていた。

 「勝ち点1を持って帰ることも考えてますか」という質問を受けた森保監督は間髪入れずに答えた。「おっしゃるとおりですが、その答えがあれば教えて頂きたい。まず、勝ち点3を取りにいきます。しかし、理想通りにいかないときもある。そうなったとき、勝ち点1を持ち帰ることも考えます」。リードしていたら、同点だったら、先手を取られたら…。「賢さを出しながら戦いたい。オプションとして戦い方を準備し、状況によって選手と共有したい」。運命の一戦が、いよいよ始まる。

中日スポーツ
https://news.yahoo.co.jp/articles/7cd20481690c1cf27bf719202118e87f034fd57a