https://jp.ign.com/drive-my-car/57953/feature/4

1年前に誰がこの展開を予想できたであろうか。今年のアカデミー賞で濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が作品賞を含む4部門にノミネートされたのだ。しかもどの部門もメジャーなもので占められている。まず日本映画として初の作品賞と脚色賞ノミネートのダブル快挙。続く監督賞は1985年の『乱』の黒澤明以来、国際長編映画賞は3年前の『万引き家族』以来のノミネートである。

去年はカンヌ映画祭で日本映画初となる脚本賞ほか計4部門を制覇、ゴールデングローブ賞やアメリカ批評家賞などでも受賞し、日本映画として前人未踏の地を力強く踏みしめ世界の注目を浴び続けてきた。これは事件であると言わざるを得ない。しかしどうであろう、国内のこの静けさと温度差。

思うに『ドライブ・マイ・カー』は日本的なストーリーではない。原作が村上春樹なこともあって色々なパーツが「輸出用」として造られており、その意味では、本作は「純粋な」日本映画ではないという言い方もできるかもしれない。海外で飲む日本酒が同じ銘柄でも国内のそれとは味が違うように、不味いとか美味いとかの問題ではなく、単純に「違っている」のである。なので日本国内に暮らす日本人からすると『ドライブ・マイ・カー』にはエキゾチックでミステリアスな異国情緒が漂う。
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ところが海外評を眺めると、皆さんは別の感想をお持ちだ。特にアメリカのクリティックの間では「日本らしさ」こそが『ドライブ・マイ・カー』のキモだと感じている人が多い。「なんとも静謐で抑制の効いた傑作」、「ヒロシマという、ひどいロスを体験した土地で繰り広げられる、ある個人的なロスと再生の物語」、「日本的なクールが詰まった宝箱」など。

そのほか、主人公の愛車である赤いサーブ900と、その中で聴くカセットテープについての言及も目立った。主人公は妻である音の朗読の声が入っているテープを運転しながら聴く。それが彼の習慣であり、癒しなのだ。カセットテープのレトロ感は近年オシャレなものとして捉えられているが、ビンテージのヨーロッパ車はアメリカではなかなかお目にかかれない。「主人公の車も持ち物もすべてかっこいい」、「すごいインテリジェンスを感じる登場人物たち」、「テクスチャーがとても良い作品。いつまでも目に焼き付けたいプロップ(小道具)がたくさんある」などの意見を拾っていくと、本作の持つ日本的な繊細さが多くのアメリカ人批評家たちを魅了したことがわかる。五感にダイレクトに訴えるのではなく、優しく触れてくる印象のモノたちの描き方が濱口監督の得意技のひとつだ。

ニューヨーク・タイムズ紙のニコラス・ラポルドは、「『ドライブ・マイ・カー』は我々が愛する村上春樹の世界をスクリーンに移行させることに成功した。それをできたのはハマグチが初めてである」と絶賛した。そう、本作を考えるとき、西洋の方々はまず村上文学を思い浮かべる。今や日本国内より英語圏に読者が多いともいわれるハルキ・ムラカミはそれこそ日本語で、日本国内で小説を書き続けながらずっと海外放浪しているかのような文体と着想を打ち出してきた。その浮遊感を見事に再現してみせたのが濱口竜介という稀代のフィルムメーカーなのだ。

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DRIVE MY CAR Trailer | TIFF 2021
https://youtu.be/pnkZFq4Y_sA