2022年1月29日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/156673

 コロナ禍の東京五輪・パラリンピックがあんなに大変だったのに、もう8年後の札幌冬季五輪の招致が大詰めを迎えている。一橋大大学院の坂上康博教授によると、日本の各都市が戦後、招致や開催準備に費やしてきた時間は延べ59年近くになる。「五輪中毒」とも言える状況はなぜ生まれ、続いてきたのか。本来あるべき姿とは何か。坂上氏に聞いた。(大杉はるか)

◆空白期間は72年札幌五輪後の5年半程度

 坂上氏は、日本が戦後、主権を回復した1952年に東京都が立候補してから、2021年東京大会が終わった昨年9月までの69年4カ月を調査。未決定の現在の札幌の活動を除いても、複数の都市が重なった時期を含めて延べ58年11カ月が招致や開催準備に費やされていた。東京、札幌、名古屋、長野、大阪がひっきりなしに運動しており、空白期間は最長でも1972年札幌五輪後の5年半程度。「カウントは開催都市の議会が招致を決定してからの期間で、知事の表明から含めればもっと長い」と坂上氏は話す。

 昨年の東京五輪は、2011年10月から招致を始め、13年9月に開催地に決まった。翌14年11月には札幌市が26年大会招致を開始。18年の胆振東部地震を受け、現在は30年大会を目指す。現段階では本命視されており、早ければ年内にも決定する。

 招致などの期間は米国よりは短いようだが、「五輪がないと済まない状態になっているということを示しており、依存症や中毒と呼んでもいいのでは」と指摘する。何が五輪中毒をもたらしているのか。「アクターはスポーツ界、開催都市、地元財界、政治家などと複数ある。その複合が引き起こしているのでは」

◆スポーツ界、開催都市、地元財界、政治家などが複合要因に

 まずスポーツ界にとって五輪は競技力向上や施設整備の費用を獲得できるチャンス。背景にあるのが「スポーツ政策の貧困」だ。予算編成にまっとうな優先順位を付けるのが政治だが、機能しておらず、「政治がない」と嘆く。

 開催都市には、インフラ整備や地域経済振興などの思惑がある。札幌市を見れば分かりやすい。同市が昨年11月に発表した大会案を見ると、前回開催した1972年前後に整備したインフラの更新を「課題」とし、「オリンピック・パラリンピックという絶好の機会を生かし、解決に向けた取り組みを推進」とある。

 期待される大会レガシーには「スポーツ・健康」「環境」などと並び、「経済・まちづくり」が挙げられている。坂上氏は「インフラは五輪に関係なく計画的に更新しないといけない。経済や観光振興の方策として五輪招致がどれだけ有効か、他の方策との比較もふまえた精緻な検証が必要だ。五輪のような短期的なイベント以上に有効な方策もあるはず」と説く。

 検証には時間をかけた議論が欠かせないが、「怖いのは五輪招致が決定すると、異論が封じられてしまうこと。『国際公約』を旗印に、有無を言わさず進んで行く。時限爆弾みたいなもの」とみる。この異論を封じる威力を持つ五輪を利用しているのが、政府や開催都市だという。

 「施設建設やインフラ整備、そのための立ち退きなどもスピーディーにやれてしまう。例外扱い。この使い勝手の良さが中毒となる要因の一つ。これは市民側の知恵や創意工夫を封殺し、思考停止状態を生み出してしまう」

(以下略、続きはソースでご確認下さい)