今年もこの季節がやってきた。

 17日に「ハンカチ王子」として人気を博した日本ハムの斎藤佑樹(33)がオリックス戦で引退試合を行う。19日には西武の松坂大輔(41)が日本ハム戦で現役最後の先発。引退試合はシーズン終盤の風物詩だ。

 投手であれば打者1人、打者であれば1打席限定でグラウンドに立つのが通例。ファンが過去の活躍を懐かしみ、別れを惜しむ機会として根付く一方で、勝敗に直結する公式戦で行うことの是非を問う声も大きい。

 ましてや、斎藤佑の引退試合は熾烈な優勝争いを続けるオリックスが相手。「ハンカチ王子の最後の雄姿」を見ようと、その日の札幌ドームのチケットは完売したが、「オリックスからすれば迷惑千万な話です」と言うのは、1971年に完全試合を達成した評論家の高橋善正氏。

「引退試合は、あくまで個人的なことで、ペナントレースに水を差してまでやることではないでしょう。引退するのが投手なら、相手打者は三振するのがお約束。過去には強振して本塁打を打った選手もいましたが、それはそれで『武士の情けがないのか』などと批判される。オリックスにしてみれば『余計なことをしてくれるな』という感じでしょう。優勝争いに直結するシーズン終盤の試合で、1打席も無駄にしたくないのが首脳陣や選手の本音。優勝がかかっているチーム相手に、引退試合をやらせる球団もどうかしてますよ」

■中日・山井の引退試合も首位ヤクルトとの公式戦

 13日に打者1人限定で先発した中日の山井大介(43)の引退試合も、相手は優勝争いを続けるヤクルトだった。先頭打者の塩見は空振り三振。これが正々堂々の真剣勝負だったかどうか。

 西武、ロッテOBで通算2081安打の山崎裕之氏はこう言う。

「監督やコーチが三振を指示することはないまでも、『三振してやる』というのがこの世界の通念。勝負の世界という意味では複雑です。私個人のことで言えば、84年6月、(同い年のチームメート)田淵幸一と『そろそろ2人で上がろうや』と話し合い、引退を決めましたが、球団に引退の意思を伝えたのは、シーズンの全試合が終わった後。私は引退試合などなく、田淵は引退セレモニーという形でファンの前で挨拶をしました」

 かつては非公式での引退試合が主流だった。47年から75年まで、10年間現役だった選手はオフシーズンの引退試合主催権を獲得。選手はその試合開催の収益金を得ることができた。それが今やシーズン中の開催が通例となった。

 一方で、チーム状況を鑑み、一軍出場を辞退して二軍戦で引退試合を行う選手もいる。今季でいえばヤクルトの雄平(37)がそのひとり。19年に引退した巨人の上原浩治氏(46)はシーズン中の5月に引退を表明、記者会見を開くと、引退試合は行わないままユニホームを脱いだ。

「上原のような去り方は非常にきれいで立派なやり方だったと思う。本来、引退する選手は本拠地最終戦で挨拶をするだけとか、オフにエキシビションゲームをするとか、公式戦に影響を与えるべきではありません。引退する選手だって複雑でしょう。そんな思いをさせるべきではないと思う」(前出の高橋氏)

 もっともである。

日刊ゲンダイ 10/17(日) 9:06
https://news.yahoo.co.jp/articles/88c0abebda4ff32f3d48bb5705fbafd14ee2db8b