デイリー新潮 10/10(日) 10:58

 いびきがうるさい! と叱られたことはないだろうか。あるいは昼間の眠気に悩まされたことは……。心当たりがあれば気を付けよ。その裏には深刻な病が隠れていることも少なくないという。潜在患者500万人といわれる「睡眠時無呼吸症候群」。その実態と対策。

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 病の解説に入る前に、まずは、著名人の闘病生活をお伝えしよう。

 芋洗坂係長(53)。でっぷりした体躯と黒縁メガネ、それに似つかわしくないキレのあるダンスと歌でお馴染みの、人気お笑いタレントである。

 しかし、テレビでの明るい姿の裏で、20年以上も、睡眠時無呼吸症候群の症状に悩まされてきた。

「自分の睡眠が明らかに異様だな、と気付いたのは、35歳くらいの時だったと思います」

 と語るのは、当の係長ご本人である。

「ある日、地方で数日がかりの仕事があり、7〜8人で旅館の同じ部屋に泊まることになったんです。自分はいびきがうるさいという自覚があったので“迷惑をかけるかもしれないよ”と言っておいた。ところが、夜中にまぶしいな、と思って目を開けたところ、部屋中のみんなが私を囲んで睨んでいるんです。“いびき?”と聞くと、“そうだよ”。一人が“鼻をちょん切るぞ”と言って、部屋から全員が出て行っちゃった。後で聞くと、グゴゴゴゴって怪獣が吠えるような音だったとか。迷惑かけちゃったなと思いまして……」

 振り返ればその10年ほど前から、「眠り」にまつわる違和感はあったという。彼は25歳で最初の結婚をしているが、

「当初は奥さんと子どもと一緒の部屋で寝ていたんですけど、いびきがうるさいから、と言われて僕だけ一人、居間で寝るように。そうなると気持ちもすれ違っていくじゃないですか。徐々に夫婦関係もおかしくなり、5年後に出て行かれてしまったんです。いびきが離婚の原因のひとつと言ってもいいと思う」

 独り身になってからは当時所属していた劇団の座長と暮らしていたが、やはりいびきで怒られたとか。稽古中に突然寝てしまったりすることもあった。それでも、疲れているんだな、と“解釈”し、不安を押しとどめていたという。

バイクを運転中に……
 しかし、前出の「旅館事件」を経て、更に5年後のこと。決定的な出来事が起こる。

 稽古に向かうために、バイクを運転していた時のことだ。

「交差点で信号待ちをしている時、何と眠ってしまったんですよ。信号が変わっても起きない。後ろに乗っていた友達にパコンと頭を叩かれて気が付き、事なきを得ましたが、もしあれが走行中だったらと考えると……本当に恐ろしい。それで慌てて大学病院に診てもらいに行ったんです」

 簡易検査キットを渡され、自宅で一晩、睡眠時の呼吸の回数や時間などを測った。そこで下された診断が「睡眠時無呼吸症候群」。

 眠っている時に喉など上気道が塞がって無呼吸、低呼吸状態になり、著しい睡眠障害とさまざまな合併症を招くという病だ。

 係長は診断の際、医師に言われた言葉を今でも忘れられないという。

「“一晩で70回は仮死状態になっていますよ”って。何でも、1時間で、無呼吸、つまり10秒間以上息が止まっている状態が100回以上はあった、と。血液中の酸素飽和度が78%まで落ちてしまっている時もあったそうです」

「酸素飽和度」は、新型コロナウイルス感染症の重症度を測る指標の一つとしても用いられている。その場合、「93%を切ったら入院」が基準であるから、酸欠状態が如何に酷かったかが分かる。

 睡眠時無呼吸症候群の原因の主たるものは、「肥満」だ。係長も例外ではなかった。

「身長は今も昔も167センチですが、体重は高校を出て上京した頃は55キロ。そこからどんどんデブになって、結婚した頃は70キロ、診断を受けた40歳の時は102キロ。お医者さんからは“痩せなさい”と言われましたけど、私の場合は、この体形自体が“芸風”ですから。無理ですよね」

 かくして係長はある治療法を勧められ、症状は劇的に改善することになる。

「いつ死んでもおかしくなかった」

 と苦難の日々を振り返るのである。

「週刊新潮」2021年10月7日号 掲載

https://news.yahoo.co.jp/articles/5e38b01b0d523e3a662369375e72378d03516044
芋洗坂係長
https://i.imgur.com/oH9oetQ.jpg