稲葉篤紀監督(49)が東京五輪で野球日本代表を初の金メダルに導き、古巣日本ハムでは次期指揮官就任への機運がぐっと盛り上がるなか、「主力選手でありチームの顔」と認められる看板選手が乱心で水を差した。球団は11日、同僚選手への暴力行為があったとして、中田翔内野手(32)に出場停止処分を科したことを発表。かつては「侍ジャパン」でも4番を張った大砲が今季は迷走を繰り返し、五輪のさなかに暴発に至った真相とは−。

 球団はこの日、統一契約書第17条が選手に誓約を求める「個人行動とフェアプレイとスポーツマンシップとにおいて日本国民の模範たるべく努力すること」に、違反する行為が中田にあったと発表。球界の憲法にあたる野球協約で、支配下選手に対して不品行など理由に球団が罰金や出場停止を科せると定めた第60条に基づき、無期限で1、2軍全試合の出場停止処分を通達したことも明らかにした。

 問題の行為があったのは今月4日。中田はエキシビションマッチのDeNA戦(函館)に「4番・一塁」で先発し、1回に左翼線への先制適時二塁打を放ったが、直後の守備から交代していた。栗山英樹監督(60)は当時、「予定通り」と説明していたが、実際には試合前に同僚選手の1人に暴力を振るっていたことが判明して、球場から即座に退場するよう命じられたのだった。

 球団は自宅謹慎とした中田本人、暴力を受けた同僚選手やチーム関係者に事情聴取。同僚選手が「大ごとにしたくない」と望み、中田が深く反省していることを踏まえても、「暴力は決して許されない」として厳正な対応を取ることを決めた。

 川村浩二球団社長兼オーナー代行(60)は会見で、暴力沙汰となった経緯を「一定の会話の中、中田選手が突発的に腹を立てて手を出した」と説明したが、本紙が球団関係者から入手した内部情報では、いささか印象が異なる。

 「暴行を受けたのは後輩の投手です。普段からいじられ役のようなキャラクターで、このときも最初は笑いで済ませていたのですが、中田のいじりがあまりにしつこすぎて、『いい加減にしろよ』と怒った。それに中田が逆切れして殴ったというのが実際のところ」

 周囲に居合わせた選手が止めに入り、その場は収まったが、後輩投手から事態の報告を受けた球団が、周囲にいた選手に聞き取りをしているうちに、プレーボールがかかってしまったという。

 冗談交じりのちょっかいから調子に乗り、本気のケンカにまで発展するなど幼稚きわまりない。まして中田は、コーチ兼任の鶴岡を除けば野手最年長のリーダー格で、先月30日には第4子の二男が誕生したばかり。「家族のためにも、これまで以上に一生懸命野球に取り組み、活躍している姿を見せたい」と誓ったばかりだ。

 後輩投手はその日のうちに中田の謝罪を受け、幸いその後の試合出場に支障もないというが、パ・リーグの最下位に沈むチームのよどんだ空気が伝わってくる。五輪の1年延期で稲葉新監督の誕生が棚上げされ、2年連続Bクラスでも政権10年目を迎えた栗山監督のマンネリ感は隠しようがなく、代わり映えしない主力に緊張感は乏しい。

 その象徴が中田だ。国内FA権の取得を視野に入れた2017年、開幕前の3月には第4回ワールド・ベースボール・クラシック日本代表で主軸打者を任されたが、チームでは打率・216、16本塁打、67打点とレギュラー定着後最悪の不振に沈んだ。それでもシーズン終盤、道産子ファンは「お前が必要 中田翔」の横断幕を左翼スタンドに掲げて残留を熱望。熱意に打たれた中田はFA権を行使せず、新たに3年契約を結んだ。

 昨季は120試合の短縮シーズンでキャリアハイの31本塁打を放ったものの、球団の先輩でもある稲葉監督の日本代表には一向に呼ばれず。契約最終年の今季は、春季キャンプ中からコロナ禍による外出禁止でストレスを溜め、開幕後も凡退に腹を立ててバットをへし折るわ、ベンチ裏で転倒して右目を腫らすわと、問題行動が目立った。

 図抜けた成績を挙げ続ければ、自国開催の五輪で中田が日の丸を背負う2021年もあり得ただろう。だが実際には、侍ジャパンが準決勝で韓国と激突する数時間前、一時の激情に駆られて愚行に走った。問題児だった入団当初から温かく見守り、残留を熱望したファンに愛想を尽かされても仕方あるまい。

 今オフには満を持して栗山監督から、金メダルを手土産に凱旋する稲葉監督へのバトンタッチが決定的だが、再来年の新球場オープンを控えた新生ファイターズに「お前は不要 中田翔」と宣告されてしまうのか。

夕刊フジ

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