NEWSポストセブン2021.07.22 07:00
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異例ずくめの東京五輪・パラリンピックは、史上最多のLGBTQ(性的マイノリティ)が集う大会でもある。米スポーツ専門サイト「アウトスポーツ」が今回参加するLGBTQ選手の名前を公表した。それによると、自ら名乗りを上げた選手だけでも142人。前回のリオ五輪は56人だったから一気に2.5倍に増えたことになる。急にLGBTQが増えるわけではないから、この5年で社会的理解が進んだことが大きな要因だろう。

最多はアメリカの30人。次いでカナダ16人、英国15人、オランダ14人、オーストラリア10人、ニュージーランド9人、ブラジル9人。アジアではインド、フィリピン、トンガがそれぞれ1人。日本、中国、台湾、韓国、北朝鮮はゼロだ。もちろん日本をはじめとする東アジア諸国にLGBTQ選手がいないわけではない。五輪取材に当たる米メディアの女性記者はこう分析する。彼女自身、レズビアンであることを公言している。

「中国や北朝鮮のような儒教思想が色濃く残る東アジアでは、独裁国家はむろん、日韓のような民主国家でも同性愛は依然として法的に保護されているとはいえないし、社会的にも完全には受け入れられていない。反同性愛主義はこれらの国のスポーツ界ではいまだ根強い。各国の五輪委員会がLGBTQを最初から排除している可能性もある」

同記者は一例として、元サッカー日本代表で、現在は全米女子サッカーリーグ(NWSL)で活躍する横山久美選手(27)が、今年6月になって「自分は男性」だとカミングアウトしたケースを挙げ、これをジョー・バイデン大統領がツイッターで歓迎したエピソードを指摘した。横山選手は日本で告白すれば選手生命を絶たれただろうというのである。

東京五輪は日本スポーツ界の「LGBTQ拒否体質」を打破する起爆剤になり得るが、バラ色の未来ばかりが見えているとは言えない。LGBTQ選手が参加するのは26競技。一番多いのは女子サッカー。次いで女子ラグビー、ソフトボール、水泳、陸上だ。

女子サッカーでは、お馴染みアメリカのエース、ミーガン・ラピノー(36)はじめ30人以上。「性別」の内訳は「女性」8に対し「男性」1の割合だ。性的指向については社会の理解があれば障壁はそれほど高くないが、スポーツシーンでどうしても物議をかもしてしまうのが、元男性のトランスジェンダー選手を女子競技に参加させていいのかというテーマだ。ニュージーランドの女子重量挙げ、ローレル・ハバード選手(43)は、2012年に性転換して女性となり、国際大会でも女子選手として活躍してきた。3年前に腕を骨折したが、見事復活して、初のトランスジェンダーのオリンピアンになった。IOC(国際オリンピック委員会)では、「女子選手」の基準として男性ホルモンであるテストステロンの値が一年間にわたり一定以下であることと定めており、ハバード選手はそれを満たしているが、生まれながらの女性の選手からは不公平だという声も多く挙がっている。

スポーツ界のトランスジェンダー選手を描いた著書『トランスジェンダーの驚くべき権利向上』の共著者、トレド大学のジェミー・テイラー教授はこう言う。

「ハバードは、コロナウイルス禍で無観客となり、野次や罵声がないことが幸いして好成績を残すかもしれない。が、結果を出せば出すほど、トランスジェンダーの出場資格について厳しい目を向けてきた一部の米英メディアの追及を受けることは避けられない」

これまでも五輪はLGBTQ問題の試金石になってきた。大会直前に、自民党がLGBTQの差別を禁じる法案に抵抗して国会提出を見送った日本にとって、五輪は大きな転換点になるかもしれない。競技上の問題だけではない。選手村や会場のトイレや更衣室、シャワー施設などでLGBTQ差別が取り沙汰されれば、世界的に“後進国”のレッテルを貼られるおそれもある。失態続きの東京五輪だけに心配は尽きない。

オリンピズムの根本原則第6項にはこう書かれている。

「このオリンピック憲章の定める権利及び自由は、人権、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由によるいかなる種類の差別も受けることなく確実に享受されなければならない」