芸能界では多くの2世タレントや2世俳優が活躍している。親から才能や人脈を受け継ぐ一方、常に比較される宿命を背負う。アニメの世界的巨匠・宮崎駿監督を父に持つ宮崎吾朗監督もその一人だ。メガホンを執った「アーヤと魔女」の公開を8月27日に控える吾朗氏は父をリスペクトしつつ、自分なりのやり方を模索している。

 幼い頃からアニメ好きだった吾朗氏は「親が才能あるアニメーターだから、同じようにはなれない」と思い、建築の設計事務所に就職。設計の知識を買われて三鷹の森ジブリ美術館に携わることになり、館長を経て「ゲド戦記」(2006年)で監督デビューした。父との関係は「ことあるごとに、けちょんけちょんですよ。ダメ出しされて反発して、口を利かなくなる。その繰り返し。お互い大人じゃないですよね」と明かす。

 息子から見た駿氏は、どんな父親なのか。「昔ながらのおじさん。もはや、おじいさんですけど、その年代の人は若い頃から働き詰めですよね。『日曜日は家族サービス』なんていう発想はなかったと思います。頑固で短気で仕事ばかり。家のことは奥さんに任せっぱなし。今の時代では褒められないですよね」。アニメーターとして英才教育を受けたことはなく、親子でキャッチボールをした記憶もないという。

 間近で仕事ぶりを見て、気付いたことがある。「発想が豊かで理屈じゃないところで映画を作る人。思いつくままに絵を描いて『どうしよう、どうしよう』と言いながら破綻するギリギリのところでまとめ上げる。アドリブで作っている感じが天才的」。その強烈な個性が「風の谷のナウシカ」「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」などの名作を生み出す原動力になったのだろう。それは決して他人が簡単にまねできることではない。

 個性で勝負する駿氏に対し、吾朗氏はチームワークを重視する。「僕にはアニメーターとしてのバックボーンがない。だから、みんなで力を合わせて作品を作っていきたい。アニメーターたちと『ああしよう』『こうしよう』と会話しながら、やる気になってもらう。そうすれば、いいものができるはず」。職人の力を結集させる作業は、吾朗氏が建築の現場で培ったものでもある。

 辛口で知られる駿氏だが、ジブリ初のフル3DCG映画「アーヤと魔女」は「とても良いスタッフがそろって、作品が持っているエネルギーをちゃんと伝えて、面白いんです。本当に手放しで褒めたい」と太鼓判を押した。そのコメントを誰よりも喜んだのが吾朗氏だった。「アーヤと魔女」にはスタジオジブリの未来が投影されている。(記者コラム・有野 博幸)

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