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先週のこのコラムでは、オープニング3日間の動員が5万2741人、興収が6898万2130円で初登場9位に終わった『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』の極度の不振について触れたが、同じ東宝配給の実写映画として、すぐ翌週にその成績をさらに下回る作品が現れることは予想していなかった。

先週末の動員ランキングでいきなりトップ10圏外(11位)となった『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』だ。オープニング3日間の動員は4万3688人、興収は5831万8900円。近年、300スクリーン(全国315スクリーンで公開)以上で公開された東宝配給作品としては最悪の出足となっている。

先週末はもう一作、「実写SF作品」という日本映画としては珍しいジャンルの作品として『Arc アーク』が公開されたが、こちらもオープニング3日間の動員が1万4891人、興収が2017万9020円と、全国182スクリーンという公開規模を踏まえてもかなり苦戦している。

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の原作はSF小説の大家ロバート・A・ハインラインの古典、『Arc アーク』の原作は現代のSF小説を代表する(本人はSF作家であることを否定しているが)ケン・リュウの傑作短編。発表された時代こそ違うものの、いずれも海外のSF小説の名作の世界初実写化作品、さらに方や「人工冬眠」、方や「不老不死」とテーマにも類似性があるが、公開時期が被った(『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』は緊急事態宣言を受けて今年2月の予定から公開延期となっていた)ことをエクスキューズにはできない初週成績と言わざるを得ない。

実写SF映画は、近未来の世界や架空の世界を作品のビジュアルとしても提示する比較的大掛かりな作品と、近未来の世界や架空の世界をあくまでも背景の設定として主に現実のロケーションや小規模のセットを使用して撮影されるアート系の作品の二つに大きく分けられる。それでいうと、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』は前者、『Arc アーク』は後者のアプローチで制作されていて、それぞれ三木孝弘監督も石川慶監督も自身の作家性を発揮しながらSF作品ならではの創意工夫を凝らしていて、両作品とも見どころは大いにある作品となっている。

三木孝弘監督も石川慶監督も、日本の実写商業映画の世界では指折りの才能だと自分は高く評価している。今回の新作はそれぞれにとっての最高傑作ではないが、間違いなく野心作であり、もし成功していたらその先にはそれぞれの作家の違った未来、あるいは(特に商業的な)停滞が続く日本映画の違った未来があったはずだ。しかし、そんな送り手の野心は少なくとも現在の日本の観客にはほとんど響かなかった。今週のコラムには結論のようなものはない。三木孝弘監督のファンとして、石川慶監督のファンとして、そして何よりもSF映画のファンとして、今はただ途方に暮れるばかりだ。

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