2021.06.28 07:30

https://tocana.jp/wp-content/uploads/2020/06/20200628_MasayaOki_01.jpg
(画像は書籍「沖雅也 in 太陽にほえろ」1983年・日本テレビ出版刊)



『1983年の沖雅也』

 1983年6月27日は俳優の沖雅也が京王プラザホテルの屋上から飛び降り自殺をした日である。

 大ヒット刑事ドラマ『太陽にほえろ!』のスコッチ刑事役、そして主演の麻生雅人役を務めた探偵ドラマ『俺たちは天使だ!』で人気を博した俳優の沖であったが、私生活ではその前半生から暗い影が差しており、家庭の不和で中学時代の15歳で単身上京し、ゲイバーでアルバイトをしながら俳優への道を模索していたのであった。

 その時に知り合った年の離れた日景忠男と同棲を開始し、私生活では養子縁組を結び、そして日景の創った芸能プロの所属俳優としてその繊細で都会的なルックスを武器に、華やかなキャリアを歩んでいったのだった。

 しかし、商業的な成功を収めた後も、沖の精神は不安定であり続け、容姿の衰えを極端に恐れた菜食の生活を送り、酷い躁鬱状態に苛まれていたという。

 1981年に自殺未遂を起こして以降は精神状態が悪化し入退院を繰り返し、31歳となったその月に、突然の最後が訪れた。

 東京、新宿の京王プラザホテルに連泊し、その最上階から飛び降り自殺を決行するのだった。

 原因は直前に出演したテレビドラマ版『蒲田行進曲』の演出、つかこうへいに演技を酷評されたためとも、事務所社長であり私生活もともにした恩人・日景との関係(ゲイである日景との肉体関係)に思い悩んでいたためとも、様々な事情が憶測されているが、その真相は定かではない。

 そして最後の捨て台詞で有名な遺書を、その場と自宅に二通残した。

「今……プラザホテル様へ 大変申し分けなくおゆるし下さいませ。つかこうへい様 あなたの名、つかを使いし僕をゆるせるものならおゆるし下さい。 人は病む。いつかは老いる。死を免れることはできない。若さも、健康も、生きていることも、どんな意味があるというのか。人間が生きていることは、結局何かを求めていることにほかならない。老いと病と死とを超えた、人間の苦悩のすべてを離れた境地を求めることが、正しいものを求めることと思うが、今の私は誤ったものの方を求めている者。おやじ 涅槃で まってる 沖雅也」

 沖のはかない人生観と苦悩が余すところなく詰め込まれた良文といって差し支えないだろう。

 自宅に置いたもう一通は、人生の大半ともに過ごしたおやじこと日景への感謝と謝罪が綴られている。

 そして自らの希望通り、我々の中の沖雅也は、永遠に美しいままで生きている。

 果たして、涅槃にいるはずのその魂は――

https://tocana.jp/2021/06/post_161162_entry.html