webスポルティーバ6/13(日) 10:48配信
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/hs_other/2021/06/13/post_37/

東大にプロ注目の強肩捕手がいることをご存知だろうか。名前は松岡泰希(3年)。175センチ、75キロ、右投右打の選手である。

1年春からベンチ入りを果たし、慶應義塾大戦で初出場するも見逃し三振。「大学生の球は速すぎる」が、松岡の神宮デビュー戦の感想だ。

その後、東大の扇の要として順調にキャリアを積み重ねてきた。なかでも特筆すべきが、盗塁阻止率である。今年の春のリーグ戦で.486という高い数字をマークした。

ちなみに、昨年のNPB公式記録による盗塁阻止率ランキングの上位5人を見ると以下のようになる。

1位 木下拓哉(中日)/.4552位 戸柱恭孝(DeNA)/.3523位 大城卓三(巨人)/.3404位 太田光(楽天)/.333   梅野隆太郎(阪神)/.333

プロの世界では一般に「3〜4割あれば十分、5割に到達すれば驚異的」と言われている。もちろん盗塁阻止は投手との共同作業であり、すべてが捕手の責任というわけではないが、それでも5割近い数字を残しているのは十分に"強肩"の部類に入る。

今春の東京六大学リーグ戦で首位打者になった50メートル6.0秒のドラフト候補・明治大の陶山勇軌が、松岡について次のように語る。

「1回戦で2度試みましたが、失敗しました。スタートは悪くなったのですが、結局、松岡くんとの勝負に負けたということです。翌日の試合でリベンジできましたが、間違いなく強肩捕手です。それに簡単に走られないように配球も考えている。六大学ナンバーワン捕手だと思います。秋は自分にとってラストシーズンになるので、松岡くんとの勝負を楽しみたいです」

神宮で松岡を見続けている巨人の高田誠スカウトは、元捕手の視点からこう評する。

「今の東大のレベルは、私がやっていた頃(1987年に法政大卒)よりもはるかに上がっています。松岡くんはバランスがよくて、体も強そう。4年生だったら調査しなくてはいけないと思って名鑑を見たら、まだ3年でした。

課題は投げる際、ステップした左足が三塁側に出る傾向があります。投げる方向にしっかり踏み出さないとシュート回転の度合いが大きくなってしまう。しっかりステップできた時はすばらしいボールがいきます。だから1試合に3つも4つも盗塁を刺せるのでしょう。いずれにしても、グラウンドに足を運んで見ないといけない選手です」

松岡は小学3年の時に地元のクラブチームで野球を始め、最初は投手だった。ノーコンだったが、球は速かった。6年生になると、肩の強さを買われて捕手に転向。中学ではボーイズリーグ所属の硬式野球部に入り、関東大会ベスト8を残すが、高校は野球で無名の東京都市大学付属高校に進んだ。

「どうしても東大野球部に入りたかった」と猛勉強し、見事、現役合格を果たした。

強肩が売りの松岡だが、打撃はどうなのか。今春リーグ戦の法政大戦では、東大の連敗を64で止める殊勲打を放つなど、29打数8安打(打率.276)5打点と及第点の成績を残した。

「もっと確実性のある打撃を身につけたい。それに、勝つためには長打力も必要になってきます。打撃だけでなく、キャッチャーとしてもっとレベルを上げていかないといけません」

好きなプロ野球選手は巨人の小林誠司。投手をリードする姿勢と人間性を見習いたいという。

最後に「あなたにとって野球とは何ですか」と聞くと、「生活のすべて、松岡泰希のすべて」ですと力強く返ってきた。これまで東大出身のプロ野球選手はわずか6人で、捕手はひとりもいない。ハードルは低くないが、それでも松岡は「プロはあきらめていません」と目を輝かせていた。