2021/05/27
志村けんが開拓したビデオコーナー 極めたからわかる「素人の力」
現代のYouTubeを予言した鉄板企画

鈴木旭
ライター



志村けんの訃報から1年あまり。彼が残した功績をたどる時、忘れられないのが『8時だョ!全員集合』の終了後、間もなく放送された『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』だ。 TBS側から声が掛かり、ドリフのエースである志村と加藤がタッグを組むことになったのだ。そもそもフジテレビ系列の『ドリフ大爆笑』でも2人は絶妙な掛け合いを見せていた。そのイメージを裏切ることなく、ドリフとは一味違うキレのある笑いを生み出していった。(ライター・鈴木旭)※本文は書籍『志村けん』論から抜粋して再構成しています



鈴木旭(すずき・あきら)
フリーランスの編集/ライター。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。2021年4月に『志村けん論』(朝日新聞出版)を発売。





まるで映画監督のような真剣さ

志村をさらなる飛躍に導いた 『加トちゃんケンちゃん〜』だったが、実は、番組構成は『全員集合』と同じだった。

『全員集合』の基本的な流れは、前半にドリフのメンバー全員で22分ほどのコントを披露し、ゲストの歌を挟みながら少年少女合唱隊、ショートコントと続いてエンディングを迎える。

志村は、これを踏襲して「自分たちが本当にやりたいこと」にもっとも時間を掛け、ホームビデオの投稿コーナーやゲストが参加するショートコントとのコントラストをつけるよう心掛けた。このあたりに、いかりやの方法論を引き継ぐ意志が垣間見える。

しかし、明らかな違いもあった。その代表的なところが映像へのこだわりだ。

メインの「THE DETECTIVE STORY(探偵物語)」は公開収録ではなく、ビデオ収録の短編ドラマ形式のコントだった。志村と加藤は、マンションの一室に住居を兼ねた探偵事務所を構えるパートナーという設定だ。基本的には謎の人物ボス〞からの電話をきっかけに、依頼主にまつわるドタバタ劇が展開されていく。この設定の利点を存分に生かし、さらに志村はコントの可能性を追求していった。

ホラー映画にヒントを得た回では、最新のVFX(視覚効果)が使用されている。ネズミと人間、ネコとヘビ、ワニとカエルを掛け合わせたような不気味なモンスターたちが続々と登場し、人間界を襲うような放送回が何度かあった。もちろん笑いどころもあるのだが、子ども心に映像そのものに驚いたのを今でも思い出す。

また、グリーンバックで右半身と左半身を別々に撮り、それぞれの体が一つの画でうごめく合成映像のコントも斬新だった。そのオフショットも番組で放送されたが、まるで映画監督のように真剣な眼差しでモニターをチェックする志村が印象的だった。

ちなみに、1984年にアメリカで公開されたホラー映画『エルム街の悪夢』の冷酷な殺人鬼フレディ・クルーガー(ロバート・イングランド)が出演した回もある。いかに志村がホラー映画に魅了されていたかが垣間見えるエピソードだ。

80年代は『ポルターガイスト』といったホラー映画だけでなく、『グレムリン』や『ゴーストバスターズ』など、VFXを駆使してヒットしたSFコメディー映画も多い。映画好きな志村は、いち早くこれをコントに取り入れたのだ。

日本の映画界を見ると、黒沢清監督のホラー映画『スウィートホーム』(1989年1月公開)でVFXが使用されているが、公開されたタイミングは『加トちゃんケンちゃん〜』のホラー回とほぼ同時期か少しあとだったと記憶する。いずれにしろ、ここまで最新技術を駆使したバラエティー番組は稀と言えるだろう。

本編に入る前の映像にもこだわりが感じられた。

遠近法を使ったトリックアートのようなセットでのコント、ビルに潜入し、ある一室の金庫を開けると中にあったテレビから本編のオープニング映像が流れるというシャレた幕開け、ポイ捨てした空き缶が路上を転がっていき、最終的にビルが崩壊するまでを追ったショートショートのような映像などは、ほとんど短編作品〞と言えるクオリティーの高さだった。




80年代米バディムービーとリンク

おもしろビデオコーナーの先見性
     ===== 後略 =====
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