7月の東京五輪・パラリンピックをめぐっては開催に悲観的な声もあるが、
現状で五輪開催の可能性をどう考えればいいだろうか。

そもそも五輪中止の決定権は国際オリンピック委員会(IOC)が持っていることを踏まえておこう。
日本(政府、東京都、大会組織委員会)は極端にいうと場所の提供をしているだけなので、
五輪中止の決定権はない。これは契約上の話だ。

五輪開催について悲観的な見方をしているのは、
一部の日本の政治家の発言や日本の世論など、日本の中の意見が多い。
しかも、これらは日本の新型コロナウイルス感染の状況がひどいというのが前提だ。

■中止のときの賠償金

本コラムで繰り返し指摘してきたが、日本の新型コロナ状況は世界の先進国の中ではトップクラスで良い。
日本では第4波と大騒ぎだが、人口当たりでみると、劇的に改善した英国と同水準である。
それにもかかわらず、日本の感染状況を理由として日本側からIOCに中止を申し出た場合、
日本はIOCに数千億円程度の巨額の賠償金を支払わなければいけなくなるのは確実だ。

実際に中止になる場合、このシナリオの可能性が高い。というのは、
IOCは放送権料が入るので、IOCから中止を言い出すことは考えにくい。
万が一、五輪参加選手が大量にボイコットすれば、IOCとしても中止せざるを得なくなるだろうが
感染状況を世界からみれば、日本は安全な地域とされ、その可能性は高くないだろう。

IOCと日本は、外国からの五輪観光を受け入れないことと最低ラインとして無観客で行うことを合意しているので、
これで中止となれば、日本側の要請しか理由がない。

となると、日本(政府、東京都、大会組織委員会)としても、中止にしてIOCに賠償金を払うより、
無観客で五輪を行ったほうがましということになる。
と考えると、五輪中止というのは、現実問題としてかなり可能性の低い話だといえる。

日本の感染状況がかつての欧米並みに悪化することはあるだろうか。
7月末までに日本の高齢者のワクチン接種が終われば、その可能性はゼロではないが、かなり少ないだろう。
高齢者のワクチン接種について、海外からの供給も国内体制も整っていると政府は言う。
いずれにしても、東京五輪が中止される可能性はあまりない。

そもそも五輪に反対する人たちの多くは五輪によるコロナ対応への負担増を口実としている。
だが、五輪を開催した場合も中止した場合も政権のミスにしたい人も多いのではないか。しかし、これは筋違いだろう。

五輪は競技参加者(アスリート)がいて初めて成立する。観客は競技を見たい人が見ればいい。
この意味では、中止で一番困るのは、表現の場を失うアスリートだ。アスリートの立場から見れば、
無観客でも競技ができることが優先だろう。

五輪中止という動きは、アスリートの希望を奪いつつ、一部勢力の政治活動になっているのではないか。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/210512/pol2105120001-n1.html
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/210512/pol2105120001-n2.html