何百、何千の命と天秤にかける「平和の祭典」などあり得ない。5月5日に札幌で行なわれたマラソンの五輪テスト大会では、沿道に「五輪ムリ 現実見よ」とプラカードを掲げる市民が見られ、「オリンピック反対!」と叫ぶ声が中継にも流れた。日本政府、組織委員会、そしてIOC(国際オリンピック委員会)も強行開催に突っ走っているが、いよいよ病床確保が怪しくなってきた東京都の小池百合子知事は、1300万都民の命とオリンピックの板挟みに苦悩している。

【図解】橋本聖子組織委会長(医師や看護師の派遣)、バッハ会長(賠償)…他、小池都知事への要求の構図

 都庁幹部の1人は、「小池知事は四面楚歌の状態」と指摘する。

「都民の命を預かる小池さんは五輪開催と感染拡大の危険との板挟みになっている。IOCも政府も組織委員会も五輪強行すれば都民にどれだけの犠牲を強いることになるかを考慮せずに開催に走っており、都民の安全は小池知事の判断にかかっているが、IOC側からは“もし、ここまで来て東京が中止を言い出すなら、全損害を負担できるのか”という強いプレッシャーを感じる」

 五輪が1年延期されて以来、「簡素な大会」への見直しを掲げた小池氏はカネの問題でIOCの意向に振り回されてきた。

 その1つが世界で高い視聴率が期待される開会式の見直しだ。各国の選手団1万人以上が入場行進することから数時間の待ち時間に「3密」が発生し、感染リスクが懸念されている。東京都や組織委員会は規模や時間短縮を検討してきたが、IOCから“待った”がかかったのだという。

 組織委の森喜朗・前会長が交渉の舞台裏をこう明かしている。

「(開会式は)個人的には半分の2時間で良いと思っている。しかしIOCが反対。テレビ局が枠を買っている。時間を短縮すると契約違反で違約金が発生する。それを日本が払ってくれとなる恐れがある。それ以上の議論をすると深みにはまるから、私はそこは引っ込めて、他の案を考えようと言った」(日刊スポーツ1月1日付インタビュー)

 五輪の放映権は米国3大ネットワークのNBCが取得しており、五十音順の選手団入場の順番も、先頭に近いアメリカを米国内での視聴率を考慮するIOCの意向で最後尾近くに登場する順番にしたと報じられている。

 IOCは放映権の収入を守るためにそこまで口を出している。

 五輪中止となれば、IOCは放映権料だけで約1300億円の損失が出る。さらに組織委員会が集めた公式スポンサー料が約3700億円にのぼる。合わせて5000億円だ。そんな巨額の賠償金を「東京が払え」と言われれば、小池氏もよほどの覚悟がなければ中止を言い出しにくい。



 IOCや政府は五輪の「無観客開催」にさえ消極的だ。

 4月28日、5者協議(IOCのバッハ会長、小池都知事、橋本聖子・東京五輪パラリンピック組織委員会会長、丸川珠代・五輪相、アンドリュー・パーソンズ・国際パラリンピック委員会会長のネット会談)が行なわれ、東京五輪の観客数の上限が話し合われたが、結論は「6月に国内のスポーツイベント等における上限規制に準じて決める」と先送りされた。

「緊急事態宣言で4都府県のイベントは原則、無観客開催となった。それに準じれば五輪も無観客にせざるを得ないが、無観客開催はIOCが難色を示しており、政府や組織委は6月まで判断を先送りしてその時点での国内イベントの観客基準に合わせることになった」(前出・都庁幹部)

 東京への緊急事態宣言や重点措置を6月までに解除し、最低でも「5割」の観客を入れて五輪を開催しようというのがIOCや政府、組織委の方針なのだ。

写真/時事通信フォト、共同通信社

※週刊ポスト2021年5月21日号

https://news.yahoo.co.jp/articles/90e6e4f42e5c603cea15ea5a06f7b75f7b785221
5/10(月) 7:05配信