【権藤博の「奔放主義」】

 6日、ナゴヤ球場で行われた二軍の中日戦に先発した阪神の藤浪晋太郎(27)の投球をネット裏から見た。

 結果は5回を2安打1失点。3四球を与えたことで「この日も課題の制球力は安定しなかった」と報じられているが、それのなにが問題なのだろうか。

■荒れ球は持ち味

 これは、阪神の首脳陣にも言えることだ。荒れ球は藤浪の持ち味――そう考えて彼を見てやらなければ、いつまでたっても藤浪の投手人生は好転しないと思う。

 そもそも、今回の二軍落ちからして私には理解できない。今季、一軍では5試合に先発して2勝1敗、防御率2.60。先発としての役割を果たしている。だが、4月23日のDeNA戦で被安打2ながら、7四死球を与えて自責点3で登録を抹消された。5試合で計27回3分の2を投げ、24四死球を与えたことを問題視されたわけだ。

 そうやって、これまでも一軍と二軍を行ったり来たりさせる阪神のやり方が、「藤浪の完全復活を遅らせている」とこのコラムで何度も指摘してきた。四球を出せば二軍落ち、制球を乱せば二軍落ち。これでは、藤浪にいらぬプレッシャーをかけるだけ。ハナからコントロールで勝負する投手ではない。荒れ球を制御するよう求めるのではなく、それが長所になり得る武器だと認め、荒れ球を生かして戦う術を示してやるのが指導者の仕事である。自滅することもあるだろうが、我慢して一軍で使い続け、成功体験を積み重ねさせた先にしか完全復活はない、というのが私の考えだ。

 いずれにしろ、二軍に落とすというのは、最も安易で簡単な方法。藤浪クラスの投手は、二軍でいくら結果を出しても本当の自信にはつながらない、ということも付け加えておきたい。

 いまさらだが、この日も投げるボールは一級品だった。比類なき迫力がある。2四球から1点を先制された四回は、確かに引っかけたり抜けたりというボールが続いたものの、それも持ち味。打者からすれば、狙い球が絞りにくいし、怖さを感じるとプラスにとらえるべきものだ。

 一軍では、藤浪に代わって昇格した新助っ人のチェンが4月29日に古巣の中日を相手に移籍後初登板初勝利を挙げた。代わりがいるから、安易に開幕投手の藤浪を落とせる。なんともぜいたくなチームだ。羨ましい。もちろん、目いっぱいの皮肉を込めてだが。

(権藤博/野球評論家)

https://news.yahoo.co.jp/articles/a8c85dd49ac93c347ba4af4a7ebb5b4a8dcb98c2
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