Written By 杉浦大介 Daisuke Sugiura @daisukesugiura
https://www.sportingnews.com/jp/nba/news/daisuke-sugiura-column-109-yuta-watanabe-signed-a-standard-nba-contract-with-raptors/qogeksc298tu1rwuoas2ug99v
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日本のNBAファンを歓喜させるニュースはアメリカ東部時間4月19日朝7時半頃、日本時間で同日夜8時半頃に届いた。『ニューヨーク・タイムズ』のマーク・スタイン記者によると、日本のプライムタイムに合わせての発表だったのだという。こんな配慮からも、渡邊雄太がやり遂げたことの意味の大きさが伝わってくる。

この日、トロント・ラプターズは2ウェイ契約選手だった渡邊と新たに本契約(通常NBA契約)を結んだことを発表した。渡邊にとって、メンフィス・グリズリーズの2ウェイ契約選手だった2シーズン前からの“悲願”がついに成就されたのだ。

「努力し続けたかいがありました!更に上を名指して(※目指して)もっともっと頑張ります!今後も応援よろしくお願いします!」(原文ママ)

この朗報が明らかになったあと、渡邊もツイッター上で非常に素直な形でその喜びを表現していた。夢を叶えた男のメッセージは非常にシンプルではあったが、それゆえに深い実感がこもっているようにも感じられた。

「Earned, not given」(与えられたのではなく勝ち取ったもの)

ラプターズの公式ツイッターは渡邊との本契約直後、渡邊が契約書にサインする写真とともにそんなフレーズを記していた。これまでの背番号18の足跡を振り返れば、そういった形容に誰もが納得することだろう。

トレーニングキャンプにはエグジビット10契約という無保証の立場で参加した渡邊は、キャンプ、プレシーズンと好プレイを継続。昨年12月20日には基本はNBA Gリーグ所属でも試合数限定でNBA戦に出場できる2ウェイ契約を締結した。

開幕後も豊富な運動量とハッスル、ディフェンス力を評価され、1月24日から7試合連続で10分以上のプレイタイムを獲得するなど、徐々に評価を上げていった。

■「いつでもダメになれば次はない」

充実したシーズンの中でも、厳しい時期がなかったわけではない。

八村塁との直接対決が注目された2月10日のワシントン・ウィザーズ戦の直前に左足首の捻挫で離脱すると、ケガの影響とオフェンスの停滞で一時はプレイタイムを失いかけた。3月の全14戦中、渡邊がプレイしたのは8戦のみ。特に19日のユタ・ジャズ戦から6試合中5戦で不出場に終わり、3月中は10分以上プレイしたゲームは2戦だけだった。

しかし、こんな苦境下でも焦らず、慌てず、適応を進め、徐々に積極性を取り戻した渡邊は4月に入って再上昇する。10日のクリーブランド・キャバリアーズ戦では14得点、16日のオーランド・マジック戦では21得点と1週間弱の間にキャリアハイの得点を2度も更新。18日のオクラホマシティ・サンダー戦では3試合連続の二桁得点で勝利に貢献するなど、欠場者の多いチーム内で主力の役割を果たすようになった。

「プレッシャーがないといったら完全に嘘になります。こういう世界なんで、いつでもダメになれば次はないですし、本当に毎試合毎試合、今日が最後っていう気持ちで試合に臨むようにはしています。ただ、今はそんなプレッシャーも楽しめるぐらいの余裕がいい意味でできてきているんじゃないかと思います」。

16日のマジック戦後、そう述べた渡邊の表情には、ついにNBAでも自信を得た手応えが感じられた。ネット上などでの反応を見る限り、地元メディアにも実力を認められ、ラプターズのファン・フェイバリットになった感もある。それほどの活躍の後だったから、本契約という今回のニュースはインパクトの大きいものではあっても、もう誰にとっても驚きではなかったのだ。

今季は39試合に出場し、平均4.0得点(フィールドゴール成功率44.8%、3ポイントショット成功率は40.0%)、3.3リバウンド。実際の貢献度はこれらの数字が示す以上で、おかげで2シーズン前に初優勝を遂げ、昨季まで7年連続プレイオフ進出を続けてきた強豪に力を認められるに至った。

無保証だった開幕前、一時的に役割を失いかけたシーズン中と、2度の苦境を乗り切り、その度に這い上がった上での成功には大きな価値がある。このスリリングな道のりはこれからいつまでも語り継がれ、日本バスケットボール史に刻まれていくに違いない。