まるで「宣伝番組」と化したバラエティの苦境

 このところテレビ番組を見て、「また飲食チェーンや食品会社の商品を特集しているのか」「あれっ?このピザチェーンの売り上げランキング、先週見なかったっけ」などと感じたことはないでしょうか。

 実際、ゴールデン帯で飲食企業や、その商品をフィーチャーしたバラエティが増え、なかには「これは広告番組?」と思わせるものも少なくないのです。以下、今年に入ってからゴールデン帯で放送された主なものをテレビ局ごとに挙げていきましょう。

■「ランキング」にこだわるテレビ朝日
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■「マツコの知らない世界」「アイ・アム・冒険少年」も
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■飲食と笑いの間で揺れるフジテレビ
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■日テレとテレ東にはあまり見られない企画
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 前述した番組は、テレビ朝日、TBS、フジテレビの3局に集中していました。独自路線をゆくテレビ東京はさておき、日本テレビのバラエティが飲食企業の企画に頼ることはほとんどないのです。それはなぜでしょうか? 

 日本テレビは2010年代から他局に先がけて10〜40代に向けた番組制作をしていたこと、これまで飲食企業の企画に頼らず結果を出し続けてきたことなどから、「コロナ禍だから」といって急に採り上げる必要性はないのでしょう。

 一方、日本テレビを追いかける3局は、これまで世帯視聴率を獲得しやすい中高年層向けの番組を量産してきたため、視聴率調査のリニューアルによって大幅な方針変換を求められることになりました。「レギュラー番組の中でファミリー層を狙える企画は何か?」と考えたとき、真っ先に挙げられるのが飲食企業の企画だったのです。

 ただ、上記に挙げた番組が「狙い通りに10〜40代(ファミリー層)の個人視聴率を獲れているか」と言えば微妙。もともと飲食企業の企画は、平日の日中や週末に放送される情報番組でも連日放送されていて、テレビをよく見ている人ほど「朝から夜まで飲食のネタばかり」という印象があるものです。もしこのまま民放3局が「右にならえ」の姿勢で飲食企業の企画を続けたら、近いうちに視聴者から飽きられかねません。

 また、バラエティにおける飲食企業の企画は、「広告収入減を食い止めるための既存スポンサー接待」。あるいは、「スポンサー再開拓の意味合いもある」という話もよく聞きます。つまり、飲食企業の企画はビジネス戦略上でも重要なものですが、これほど頻繁に扱ってしまうと、かえって出稿は増えず、広告効果も薄れてしまうのが難しいところ。3局は各番組の制作だけでなく、これまで以上に編成や営業との連携を深めて戦略を練り直したほうがいいでしょう。

■本当に飲食企業の企画をやりたいのか

 制作現場の人々としても、「本当に飲食企業の企画をやりたいか?」と聞かれたら素直にうなずけないのではないでしょうか。「ロケが思うようにできない」「会社から『ファミリー層を狙え』と言われるから」「営業をサポートするために」「ステイホームの時期だから」。特にバラエティがやりたくてテレビ業界に入った人ほど、今はこれらのエクスキューズをもとに飲食企業の企画を選んでいるだけでしょう。

 そういう人が今後も初志を忘れ、飲食企業の企画を続けていたらテレビ業界の未来は暗いと言わざるをえません。もともと「バラエティ」は、さまざまな企画を楽しめるジャンルであり、ひいてはテレビ最大の武器であったはずの多様性を確保するためにも、現在のような過剰供給は望ましくないでしょう。

東洋経済オンライン2021/02/28
https://toyokeizai.net/articles/-/413990