■役と自分の狭間での葛藤もない「女優に固定されたイメージはいらない」
――これまで、世間のイメージとのギャップに苦しんだことなどはなかったですか?

【長澤まさみ】ないですね。私自身が、どういう風にとらえられてもいいかなと思っているところがあって。お芝居をしていく上では固定されたイメージを求められていないから、特に気にしていないんです。だから、役と自分の狭間での葛藤はないです。西川監督の作品の登場人物が多面的であるように、いろんな可能性を持って自分自身を育てていきたいです。

――そう思えるようになったのは、年齢を重ねてからでしょうか?

【長澤まさみ】昔からです。女優であるからにはいろんな役を演じたいっていうのは、子どもの頃から思っていました。だからイメージに苦しむこともないし、役によって感覚は違っていたいなと。

――ご自身のターニングポイントになった作品はありますか?

【長澤まさみ】今回のことで言えば、『海街diary』に巡り合えたことが大きかったと思います。あの是枝監督の現場で西川監督に認識してもらえたのだろうと。私は、その時その時でいろいろな女性像を当てはめてもらえていて、色気一つにしても『キャバレー』も『モテキ』も全部違うんですよね。最近の作品で女性的だったのは『海街diary』だと思うので、つながっているのかなと。ありがたいですね。

――これまで演じられた役で、ご自身に近い役はありましたか?

【長澤まさみ】ないですね、本当に自分とは違うなって思います(笑)。同じ価値観を持ち合わせている人っていないんだなと。とはいえ自分が演じるので、自分に寄ってくるものだし。自分ではないけれど、自分から生まれるものなので、どの役も愛着はあります。

■進化し続ける秘訣は“自分を疑う心”? 既存のイメージや価値観にとらわれない生き方
――昨年デビュー20周年を迎えられましたが、ずっと女優を続けてこられた理由は?

【長澤まさみ】やっぱりこの仕事が楽しいからですね。たくさんの人に観てもらえると、本当に嬉しくて。作品は、観てもらえて初めて生きると思うから。人に届けることのおもしろみに、自分自身がときめいているんだと思います。

――さきほど“私自身が、どういう風にとらえられてもいい”というお話もありましたが、女優をしていて孤独を感じることはありますか?

【長澤まさみ】10代でこの仕事を始めた時に、俳優ってすごく孤独な仕事だなと思ったんです。自分で台本を読んで考えて現場に行って。監督やスタッフさんはいるけれど、やっぱりそこで演じるのは自分なので。取材を受けて話した言葉の責任を取るのも自分だし、とても孤独で自分と向き合う仕事だなと。でも、そういう風に自分と向き合うことで得られた感覚もたくさんあります。

――お仕事を始めた頃から、いろいろな感情と向き合ってこられたんですね。

【長澤まさみ】俳優にはおもしろくて魅力的な方も多いので、こういう考え方をするんだって刺激を受けたり、若い頃はそれに憧れて自分に足りないものを考えたり、比較してもっとこうでありたいと思ったりもしました。孤独な仕事ですけど、新しい出会いもありますし、内にこもるのではなく、外に目を向けていきたいですね。

――広い視野を持つことで得るものがあると?

【長澤まさみ】社会が決めたルールにとらわれない価値観を持つことも重要なのかなと思います。最終的に決断するのは自分だし、人に決められて自分の人生があるわけじゃないから。そういう風にとらえたら、孤独を感じている時間よりは、この先のことを考える時間の方が長くなる気がするんです。だから悩むのも重要ですけど、悩みながら進めばいいかなと。

――最後に、今後の目標や目指す方向性があれば伺えますか?

【長澤まさみ】ちゃんと自分を疑っていける人になりたいですね。慣れてしまうことで色々な大切なことを忘れてしまいたくない、という思いがありますし、現状維持がベストだとは思わないので、甘えのない、自分の価値観を持っていられる努力をしていきたいです。