180センチ近い長身で、1970年前後に米国で叫ばれた「ブラックビューティー」を体現するような華やかさを漂わす同氏。均質性を重んじる日本社会では、明らかに突出した外見の持ち主だろう。
「小学生の頃は、髪の毛とか何で皆と違うんだろうと悩みました。でも、中学生の頃からハーフの芸能人がもてはやされるようになって、友達にも『格好いい』って言われるようになった。

それでも、自信につながったかというと難しいです。今でも街や電車の中で、知らない人たちから心ない言葉を投げつけられる。アイデンティティーでいつも揺れている、というのが正直な気持ちです」。
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欧米や他のアジア諸国同様、日本にも人種差別問題が歴然とあることは否定しようもない。従って、「日本に差別はない」などという意見はまず切り捨てられねばならない。

では、日本と歴史的なゆかりがある朝鮮半島にルーツがある人はどう見るのだろう。 「動画を見てまず思ったのは、テーマ性どうのより、情緒性やストーリー性を過剰に演出していて、少女たちを勇気づけようという押し売り感が強すぎること」。
意外な感想を語るのは、フリーのTVプロデューサーで在日コリアン3世のリ・ヨンスク氏。映像制作に携わる者らしい視点でもあろうが、同氏は外国人=被差別者という紋切り型の思考には懐疑的だ。

「いじめを受ける理由のすべては外国人だから、では逆差別になりかねない。ルーツや国籍で己を選別するのではなく、まず自分自身を知り、考えて行動する。その上での評価を受け止めるのが当然です」。
同氏は、すべての教育を日本人が通う学校で受けた。当時は親の方針で通名を使ったが、周囲は皆、同氏の出自を知っていた。「自分の振る舞いや対応もあったと思いますが、露骨ないじめや差別は経験しませんでした」。

企業がこうした社会性の強いメッセージを発信することには、賛意を表す。「(企業は)自由にやればいい。それに対してネット上で批判が起こるのは、内面的にいろいろな問題を抱えている視聴者が過剰反応している結果だと思います。
こうしたCMで勇気づけられる子たちもたくさんいる。社会への問題提起のツールとして、意義があると思います」

東京のビジネスクリエイティブ戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」でマネージングパートナーを務めるバリー・ラスティグ氏は、ナイキのアプローチを全面的に支持する。
「広告界のクリエイティブにとって、こうした作品を生み出すことは理想。企業は社会的姿勢を鮮明に打ち出すことに、躊躇する必要はありません。ナイキは先頭に立ち、それを積極的に行ってきた」。

「このCMに反発するのは、日本社会・文化の『守護者』を自称する人々。CMに登場するような少女たちが無意識のうちに闘っている相手はまさしくそうした人々で、彼らにスポットライトが当たったのは皮肉な結果でしょう」
また、依然として人種差別問題が根強い米国の企業に他国の人種問題を批判する資格があるのか、という声もある。

つづく

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