主演映画『水上のフライト』で、かつて経験したことのない難役に挑んだ女優の中条あやみ。彼女が演じるのは、不慮の事故で車椅子生活を余儀なくされた元走り高跳びの有力選手・藤堂遥だ。カヌーと出会うまで、自分の“居場所”を見つけることができず、苦悩にさいなまれる日々を送っていた遥……。その姿にかつての自分を重ね合わせた中条が、モデルと女優の狭間で揺れた悩める十代を振り返った。

 14歳でスカウトされ、2011年からファッション雑誌「Seventeen」の専属モデルを務めることになった中条は、同時に女優のオーディションにも果敢にチャレンジしていた。「当時、いろんなオーディションを受けましたが、どこへ行っても相手にされず、落とされてばかり。ある時、初めてお会いした監督から『あなたはここにモデルではなく、女優として来ているんだから、もっとちゃんと演技をしなさい!』と怒られて。さすがに向いていないのかなと、あきらめかけていました」

 年齢も16歳になり、そろそろ焦りが見えはじめたころ、同じ雑誌の先輩にアドバイスを乞うと、中条自身も少し気にしていたところをずばり指摘されたという。「その先輩が言うには『わたしもそうだけど、あなたも顔が濃いタイプだから、年齢に合った役がなかなか付きづらい』のだとか。でも、『いずれ顔と年齢が合ってくるから、もう少しの我慢。その間に演技の勉強をたくさんしてね。受からないからといって、今絶対にやめちゃダメ』と励ましてくれたんです」。この言葉で気持ちをつないだ中条は、可能性を信じて、その後もめげずにオーディションを受け続ける。

 そして2014年に『劇場版 零〜ゼロ〜』で念願の映画初主演を果たした中条は、以降も『ライチ☆光クラブ』『セトウツミ』『チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』『覆面系ノイズ』『ニセコイ』と、まさに破竹の勢いで映画のヒロインの座を次々と射止める。ところが、作品を担う座長のポジションはかなりの重責で、なかなか自分の演技に自信が持てずにネガティブになることも。「思うようなお芝居ができていないことから、やっぱり女優はわたしの“居場所”じゃないのかな? と思うことも増えてきて。『わたしのホームはモデルだから』と少し逃げ腰になっていた時期もありました」と吐露。

 「こんなわたしが本当に主役でいいのかな?」そんな思いで葛藤するなか、昨年放送のドラマ「白衣の戦士!」で同郷の先輩・水川あさみと共演する。「わたしと同じ大阪出身で、姉と水川さんが同年代ということもあって、いろんなことを相談させていただいたのですが、まずは目の前の撮影現場をとことん『楽しむ』ということに気付かされました。難しくて大変なのは、どこの撮影現場も同じ。だったら楽しもうよと。すごくシンプルなことだけれど、楽しみながら演じることって、わたしに一番足りなかったことかもしれません」。のびのびと演技を楽しむ水川の背中を見て、気持ちが完全に吹っ切れた中条。女優という世界で、ようやく“居場所”らしい何かをつかんだようだ。

 そんな中条が主演する映画『水上のフライト』は、『超高速!参勤交代』などの脚本家・土橋章宏が実話をもとに作り上げたオリジナルストーリーを『キセキ −あの日のソビト−』の兼重淳監督が映画化した感動ドラマ。カヌーと出会って新たな夢に向かって羽ばたく遥(中条)を中心に、彼女を陰で支えるエンジニア・颯太(杉野遥亮)、カヌー教室のコーチ・宮本浩(小澤征悦)、遥の母・郁子(大塚寧々)たちの人間模様が描かれる。(取材・文:坂田正樹)

映画『水上のフライト』は全国公開中

2020年11月15日 8時10分
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中条あやみ、気迫の演技!『水上のフライト』予告編【動画】
https://youtu.be/0X-Ah8Gnmbc