●慶應大はスポーツ推薦なし 忖度なくドラ1候補でも不合格に
 六大学野球の「早慶戦」は有名だが、野球に限らずスポーツでは早稲田大学の後塵を拝してきたイメージが強い慶應義塾大学。しかし2019年でいうと、個人・団体を含めて13のスポーツ分野で日本一を獲るなど、近年の躍進は目覚ましい。

 肝心の野球部もここ3年間のリーグ戦で3回(2017秋、2018春、2019秋)優勝し、現在は六大学の中で随一の投手陣を誇る。日本の大学で最初に野球部を立ち上げたのは慶應であり(1888年に発足した三田ベースボール倶楽部)、その面目躍如といったところだろう。ただその一方で、

「早稲田出身の選手がプロ野球で活躍できていて、慶應が若干水をあけられていることは事実ですね」

 こう語るのは自身も慶應卒、社会人の名門・JR東日本で長らく指揮を執り、2019年に野球部監督に就任した堀井哲也監督だ。

「ただプロで活躍するといっても、プロに入る時点で完成されている子、プロで色々経験することで伸びる子、上手くチャンスを掴む子など色々な条件があるので、はっきりとした理由はわからないですが……」

 当事者たちの考えはどうか。理工学部卒、中日の福谷浩司投手が語る。

「確かに少ないイメージはありますね。でも僕の卒業時と比べると、昨年の郡司(裕也)たちの代は一気に4人もプロ入りするなど増えてきています。最近は慶應もプロに近いトレーニングをして強くなっているので、これからどんどん変化していくと思います」

 その郡司裕也捕手(中日)が続ける。

「早稲田にはスポーツ推薦があって、最低でも超高校級が毎年4人入ります。潜在能力の差があるのは間違いないと思います」

●忖度なし、我が道を行くスタイルを貫く校風
 六大学の中でスポーツ推薦がないのは慶應と東大のみ。慶應は1990年に日本で初めてAO入試を導入し、世間では「事実上のスポーツ推薦だ」とも言われたが、実際はそんなことはなかった。現に今年9月には、中京大中京の高橋宏斗投手がAO入試を受け不合格になっている。その後高橋は急遽プロ志望届を出し、中日のドラフト1位指名を受けたことは記憶に新しい。

 古くは怪物・江川卓(元巨人)を落とし、今回もたとえドラフト1位レベルでも基準に満たなければ不合格にする。どんな逸材だろうと忖度なしのスタイルは一貫している。

 それは選手にも浸透している。今年、ヤクルトからドラフト1位指名を受けた現エース・木澤尚文は、慶應OBのプロでの伸び悩みを気にする様子はなかった。

「僕には関係ないですね。その都度監督も違いますし、チームの状況も目まぐるしく変わりますから。何も意識する必要はないと思っています」

一方で、自分たちのことも冷静に分析しているから興味深い。印象的だったのが今年のドラフトでソフトバンクから育成1位指名を受けた佐藤宏樹投手だ。

 佐藤は1年秋にスピンの効いたストレートで奪三振の山を築き、無傷の3連勝を挙げて優勝に貢献したが、その後は肘痛に悩まされてきた。育成指名待ちか浪人を選択する覚悟を決め、大学最後の今年の秋のリーグ戦を捨ててまでトミー・ジョン手術を受けた苦労人である。

「早稲田の選手と比べると、絶対的に練習量の差があるのかなと思います。そのため慶應の選手はプロという新しい環境の中でついていくだけで精一杯になってしまい、レベルアップの練習まで追いつかないのではないでしょうか。それに慶應の選手は自分の意志が強すぎる傾向がある。指揮官から助言を貰っても考えを曲げない人が多く、それが裏目に出てしまう場合もあるんじゃないかと思います」

※週刊ポスト2020年11月30日号

https://www.news-postseven.com/archives/20201110_1610336.html?DETAIL
2020.11.10