新型コロナウイルスがこの春から映画館に与えた影響は想像以上に大きかった。ウィズコロナ、ステイホームが叫ばれて劇場に足を運ぶ人が途絶え、相次いで新作の公開延期が発表される。上映予定の作品を失い、窮地に立つ劇場。そんな緊急事態を救ったのは懐かしい旧作名画の数々だった。何度もソフト化され、テレビ放送されても、愛すべき名作には今でも確かな集客力がある。コロナ禍のおかげで、映画館という集いの場の未来を憂うファンが大勢おり、かつての名画座的プログラムにも十分な興行価値があると分かった。

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■映画館の窮地をジブリが救う

 特に「一生に一度は、映画館でジブリを。」のコンセプトで、6月26日から全国370館を超える劇場で再上映が始まったスタジオジブリ作品の強さには、改めて目を見張るものがあった。

 公開直後の週末には、全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)のトップ3を『千と千尋の神隠し』(2001年)、『もののけ姫』(1997年)、『風の谷のナウシカ』(1984年)が独占。徐々に封切りが始まった新作映画を押しのけて、3週連続でトップ3を独走する異例の事態となった。

 「劇場で観られて良かった」「感動した」と、映画館でのジブリ体験への絶賛が連日のようにSNSに並ぶなか、初見の印象とのギャップ込みで話題になっているのが『もののけ姫』だ。子どもの頃に観て「難しい」「暗い」「怖い」と感じた観客が、大人になった今、その魅力を再発見しているのだ。

■まさに“もののけ”な映画が出現したあの夏

 『もののけ姫』が初公開されたのは23年前の1997年7月12日。同日には洋画の超大作『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』が封切られ、翌8月には大ヒット作の続編『スピード2』が公開を控えるなど強豪がひしめくなか、実に1420万人の観客を動員。日本映画の歴代興行記録を塗り替える193億円を叩き出し、アニメ作品として初の日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得。劇場からあふれた観客が長蛇の列を作り、社会現象と呼ばれる大ヒットとなった。

 映画の舞台は遠い昔の日本。タタリ神と恐れられる巨大な怪物を退治した少年アシタカ(声:松田洋治)は、右腕に死の呪いを受ける。穢(けが)れを背負って村を追われた彼は、自分の運命を見極めようと旅を続け、深い森の先にある製鉄の村・タタラ場に辿り着く。そこには女統率者のエボシ御前(田中裕子)と、その命を狙う「もののけ姫」がいた。人々に恐れられる姫の名はサン(石田ゆり子)。人間でありながら山犬の一族に育てられ、製鉄の為に豊かな森を破壊する者に憎しみの炎を燃やす少女だった。

 物語は神と人間、破壊と共存、欲望と憎悪、かすかな希望の間を揺れ動きながら、決して避けられない戦いへと雪崩(なだ)れ込んでゆく。宣伝ポスターに大きく刷られたキャッチコピーはずばり、「生きろ。」。『もののけ姫』の1週間後に封切られた人気テレビアニメの劇場版『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』(1997)のコピーが「だからみんな、死んでしまえばいいのに…」だったこともあり、余計に『もののけ姫』のメッセージ性が強く際立ったのをご記憶の方も多いだろう。

 ストレートな惹句を掲げた『もののけ姫』だが、多くの観客を集める一方で「難解」という批判も出た。それも当然。監督の宮崎駿自身、作品完成から4ヵ月の記者会見で「自分は何を描いたのか、総括が終わってない」と内心の葛藤を吐露しているのだ。

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https://news.livedoor.com/article/detail/18624146/