文藝春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文藝春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。
今回は広告を巡る週刊誌と新聞社、広告代理店、そして取材先である政治家や芸能人のバトルをお伝えする。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)

● 発売前に記事内容を 知る方法とは?
週刊誌のタイトルを中づりや新聞広告で見てから買うという人も多いと思います。
実はこの広告は神経を使う部分なのです。

週刊文春の場合、発売日は通常木曜日。原稿の最終締め切りは火曜の夕方です。
火曜の朝までに記者が原稿を書き、編集者が修正して、2回のゲラチェックを経て校了します。
何もなければ夕方には終わりますが、大事件が起きたときなどは深夜になることもあります。

この原稿の中身を早く知る方法はなかなかありません。
印刷所といっても週刊文春を印刷している凸版印刷は文春社内に組版の部屋を持っているため、そこですべてが処理されます。

しかし週刊誌に記事を書かれる側は、なんとかして中身を知ろうとします。
月曜の夕方から原稿を書くのが通常ですから、月曜の朝には取材を申し込みます。
申し込みを受けた側、あるいは取材を受けた側というのは、どんなタイトルと中身になるのか必死で探ります。

そして、実は抜け道があるのです。新聞広告と中づり広告という――。

新聞広告や中づりは、編集長が作ります。
日曜の段階でタイトルを考え、記事の扱い、大小、右トップと左トップに持ってくる記事はどれか、といった原案をすべて編集長が考え、出来上がってから編集幹部と話し合って完成させます。
そして、火曜の夕方には中づりは電通に、新聞広告は新聞社に運ばれます。
なぜ、発売日よりも2日も早いのかというと、一応、理由は「新聞や中づりのNGワードと週刊誌の言葉が合うかどうか」を審査するということになっています。

たとえば、男性週刊誌が使う「巨乳」は「豊乳」に書き直しを要請されます。
「巨乳」は女性蔑視なのだそうです(仮にそうだとしても、豊乳が女性蔑視でないのか疑問の余地がありますが)。
あるいは、SEXという言葉です。なぜか新聞では、「SEX」はことさら性を強調するとして「性」に直せという要請がありました。
一方、中づりはその逆で、「性」ではなく、子供が読めないであろう「SEX」にしてほしいとの要請があるのです(今は違うのかもしれませんが)。

● 権力者の手助けをする 大新聞の不見識
まあ、しかし、双方がうすうすわかっていることなのですが、実際には、新聞社は週刊誌が自分たちの知らないことをやっていないか、
やっていれば、担当各部署に「こんな記事が出るよ」と通報するための事前審査であることは間違いありません(かつて担当した新聞社の人は認めていました)。
中づりにしても、担当が広告代理店ですから、クライアントに内容を通報する可能性は十分にあります。

実際、何度も被害に遭いました。たとえば、芸能人のスキャンダルだと、スポーツ紙は広告でそれを知り、発売前日に事務所に「こんな記事が出る」という内容だけで取材をかけます。
事務所がコメントすると、それだけは自社の取材ですから、「独自取材」となります。

「何日にわかった」という、よくわからない前置きで記事が出て、事務所側のどうでもいいコメントが載ることで、週刊誌のスクープではなくなってしまいます。

>>2以降に続く