「ノーサイドの笛が鳴った」。
ラグビーの記事で、試合終了時を表現する時によく使われ、テレビの実況でも耳にする。
ラグビーを愛する人たちにとって、この言葉は特別だ。
日本ラグビー協会広報の富岡英輔さんは「幼い時に見たテレビドラマ『青春とはなんだ』でノーサイド精神を学び、その時から大好きな言葉の一つです」と熱く語る。
 
 ただ海外では、「ノーサイド」と言ってもラグビー用語として知っている人はほとんどいないだろう。
国際試合での試合終了は「フルタイム」が共通語で、日本の国際審判員もこれに準ずる。
かつて日本を指揮した現イングランド代表監督のエディー・ジョーンズ氏も、来日時は知らなかった。

 もともとは、かつてイングランドで使われていた専門用語で、試合終了以外の意味はなかったようだが、日本に伝わって解釈が加わった。
「試合が終われば、敵味方関係なく、お互いを尊重し、たたえる」。ノーサイドの精神と言われるものだ。

 どういういきさつでこうなったのか定かではないが、日本の美徳とマッチしたのか。
松任谷由実の楽曲やドラマのタイトルでも用いられ、日常生活でも使われるようになった。

 解釈も根付き方も日本特有だが、精神はラグビー文化として世界に古くから根付いている。
大成功だった2019年W杯。日本中が歓喜に沸いたスコットランド戦の試合後、リーチマイケル主将は相手ロッカーを訪ね、日本選手と激しくやり合ったジェイミー・リッチーに日本刀(模造)を直接手渡した。

 相手に敬意を表しての行動に、リッチーはSNSを通じて日本代表へメッセージを送った。「試合では全力で相手に立ち向かったが、笛が鳴れば、そこには尊敬しかない」

 まさにこの試合は「ノーサイドの笛が鳴った」と表現するのにふさわしかったと思う。
(時事通信社・阿部太郎)
https://news.yahoo.co.jp/articles/c5bf69122868595b93ab3110bbf35b2f8adc50b4