「#検察庁法改正案に抗議します」──Twitterをこのハッシュタグが席巻している。その数はすでに600万ツイートを超えると見られるが、注目されるのは多くの芸能人たちも声をあげたことだ。

 その一部を列挙すると、小泉今日子、浅野忠信、ラサール石井、大久保佳代子(オアシズ)、井浦新、城田優、Chara、秋元才加、西郷輝彦、大谷ノブ彦(ダイノジ)、緒方恵美、高田延彦、水野良樹(いきものがかり)、日高光啓(AAA)、末吉秀太(AAA)などである(敬称略)。なかでも、きゃりーぱみゅぱみゅのツイート(現在は削除)に対し、保守系の評論家が「歌手やってて、知らないかも知れないけど」と前置きしたうえで反論したことは強く注目された。

 なんにせよ近年の日本において、これほど多くの芸能人が同時に時の政権について抗議を表明する事態は、きわめて珍しい。

 この背景には、ここ数年の日本芸能界の変化がある。

 今回の検察庁法改正案への芸能人による反対声明は、5年前の安保法制よりもずっと大きな広がりを見せている。大きな広告の仕事をしている芸能人も少なくない。これまでとは異なる状況が生じている。この背景には、3つの理由が考えられる。

 ひとつが、安倍政権の新型コロナ対策への危機感だ。今回の感染症は芸能界にも大きな影響を及ぼしている。多くのイベントやライブは中止されたままであり、テレビ番組の収録も非常にかぎられている。個人事業者である芸能人の収入はかなり減り、彼らの出演の場であったライブハウスが閉店する事態も生じている。ミニシアター(映画館)もかなり危機的な状況にある。

 しかし、こうした状況に対して政府の対応は鈍く、しかも遅かった。持続化給付金の上限は、中小企業で200万円、個人事業者では100万円だ。こうしたことへの不満や問題意識が間違いなくある。実際、13日に開催予定のYouTube LIVE「ミニシアター・エイドLIVE #ミニシアターと私」には、今回のツイートをした小泉今日子さんと井浦新さんの名前がある。

 次は、日本の芸能界が質的に変化しつつあることだ。ここ数年、大物の芸能人が長く所属していた芸能プロダクションを離れて独立・移籍するケースが増えている。その端緒は、2017年に元SMAPの稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾の3人だったが、それがもっとも相次いだのは3月末(昨年度末)のことだ。コロナ禍によって目立たなかったが、元SMAPの中居正広や柴咲コウ、米倉涼子などの人気芸能人が独立した。

 この背景には、昨年、芸能人の移籍や独立後の活動制限を公正取引委員会が独占禁止法違反とする見解をまとめたことがある。これによって、芸能人が移籍・独立しても干さるリスクは格段に減った。同時に、タレントは所属プロダクション側の顔色を気にしなくてもよくなった。広告スポンサーとの契約もテレビ番組の出演も、自身で判断できるからだ。

 今回のケースでは、小泉今日子さんが自身の会社のアカウントで積極的にツイートをしているのが象徴的だ。小泉さんが36年間所属した古巣の芸能プロダクションから独立したのは、2018年1月のこと。もともと歯に衣着せない発言をしてきた彼女だが、以前よりもずっと自由に意見表明をしているように見える。

 また独立していなくとも、昨年の吉本興業の闇営業問題もあり、多くの芸能人が以前よりも仕事に対して強い自覚を持つようになったところもあるのかもしれない。

 最後にあげられるのは、グローバル化だ。日本の芸能界は、長らく閉鎖的な状況が続いてきた。とくに90年代に入って産業的に大きく拡大していくなかで、ドメスティックな状況が強まった。結局その傾向は00年代いっぱいまで継続していくが、10年代にインターネットに乗って海外のポップカルチャーが広く浸透していった。K-POPやNetflixのドラマ・映画などだ。

 結果、日本の芸能人たちは、活躍の場が国内だけではないことを強く意識するようになった。実際、忽那汐里や宮脇咲良(IZ*ONE)、高橋朱里(Rocket Punch)のように海外で活動をする者も増え始めた。今回のツイートをしたなかでは、秋元才加さんがそうだ。彼女がハリウッド映画『山猫は眠らない8(仮)』に出演することは、件のツイートのあとに発表された。

松谷創一郎 | ライター、リサーチャー5/13(水) 5:30
https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20200513-00178207/