サッカー“弱小国”から強豪へ

 さて、コロンビアやベネズエラは、かつてはサッカー強国が揃う南米大陸の中では弱小国扱いされていた国だ。南米選手権「コパ・アメリカ」でも、ワールドカップ予選でもベネズエラの最下位は最初から決まっているようなものだった。

 だが、コロンビアは1980年代頃からサッカーの強化が進み、1990年のイタリア大会以降はワールドカップの常連となった。カルロス・バルデラマなどがいた時代である。そして、コロンビアは2014年のブラジル大会、2018年のロシア大会と2大会連続で日本と対戦して日本の“宿敵”となった(2014年はコロンビア、2018年は日本が勝利)。

 ベネズエラのサッカーが強くなったのはさらに遅く、21世紀に入ってからのことだ。ワールドカップこそまだ出場できていないが、コパ・アメリカでは2011年大会でベスト4に入って南米中を驚かせた。また、20歳以下の選手の大会U-20ワールドカップでは2017年韓国大会で決勝に進出。この時は決勝トーナメント1回戦で日本とも対戦して、延長戦の末にベネズエラが日本を破っている。


盛んなのは野球かサッカーか

 かつてベネズエラのサッカーが「南米最弱」と言われたのは、この国ではサッカーより野球の方が盛んだったからだ。最近はサッカーも普及しているが、今でもこの国のナンバーワンスポーツは、野球(スペイン語では「Beisbol」)。フェリックス・ヘルナンデスやヨハン・サンタナといったアメリカのメジャーリーグで活躍した名投手を生んだ国であり、また横浜DeNAベイスターズのアレックス・ラミレス監督もベネズエラ出身だ。そして、コロンビアもベネズエラほどではないが、野球が盛んな国だ。

 コロンビアとベネズエラは南米大陸に属する国であると同時に、ともにカリブ海に面した国でもある(かつては両国はパナマとともに「グラン(大)コロンビア」と呼ばれる1つの国だったが、1830年に分離独立)。カリブ海は野球の盛んな地域である。つまり、両国のスポーツ事情もそうした地理的な条件に影響を受けているのだ。「スポーツ地政学」とでも言おうか。

 両国を除く他の南米はサッカーの大陸だ(アルゼンチンではラグビーも盛ん)。野球もプレーされており、たとえばアルゼンチンの首都ブエノスアイレスのエセイサ国際空港のそばには国立野球場もある。だが、南米大陸では、野球はあくまでもマイナーな存在だ。

 南米大陸のサッカーは、もともと経済的に英国の支配下にあり多くの英国人労働者や技師が働いていた南米最南端の国、アルゼンチンやウルグアイで盛んになった。そこからまずブラジルに、そしてアンデス諸国へと広まっていった。そして、20世紀末から21世紀初めにかけてようやくコロンビア、ベネズエラに波が到達したのだ。

 一方、アメリカ合衆国発祥の野球は、地理的に近いメキシコやカリブ海諸国に広まって、最終的にカリブ海の南端(=南米大陸北端)のベネズエラやコロンビアに到達した。こうして、南米大陸北部から中米、カリブ海一帯はサッカーと野球が併存する地域となったのだ。

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