7月にスタートした夏ドラマに異例の事態が起こっている。プライム帯(19〜23時)に放送される新作ドラマはすべて原作ありで、オリジナル作品が1つもないのだ。その背景について、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 7月7日の『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)を皮切りに、8日は『監察医 朝顔』(フジテレビ系)、9日は『Heaven?〜ご苦楽レストラン〜』(TBS系)、10日は『偽装不倫』(日本テレビ系)、11日は『ルパンの娘』(フジテレビ系)と『サイン ―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系)、12日は『Iターン』(テレビ東京系)、13日は『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)と連日、夏ドラマがスタートしています。

 早々からネット上にはさまざまな声が飛び交っていますが、なかでも目立つのは「原作にそっくり!」「原作のイメージと全然違う」「これも原作通りなのかな?」という原作絡みのコメント。決して「一部の原作ファンが騒いでいる」というわけではありません。今夏にプライム帯(19〜23時)で放送される全11作の新作ドラマ(シリーズ作の「刑事7人」「警視庁ゼロ係」は除く)は、「すべて原作あり」のため、必然的に原作絡みのコメントが増えてしまうのです。

 漫画原作の『監察医 朝顔』、『Heaven?』、『偽装不倫』、『凪のお暇』(TBS系、19日スタート)。

 小説原作の『ルパンの娘』、『これは経費で落ちません!』(NHK、26日スタート)、『ノーサイド・ゲーム』。

 韓流ドラマ原作の『TWO WEEKS』(フジテレビ系、16日スタート)、『サイン ―法医学者 柚木貴志の事件―』、『ボイス 110緊急指令室』。

 ノンフィクション原作の『リーガル・ハート 〜いのちの再建弁護士〜』(テレビ東京系、22日スタート)。

 漫画4作、小説3作、韓流3作、ノンフィクション1作とバラけていますが、いずれも原作のある作品であることは変わりません。1970年代から40年以上ドラマを見続けてきましたが、新作のオリジナルドラマがないクールは記憶になく、まさに前代未聞の状況なのです。

 なぜ今夏の新作ドラマは「すべて原作アリ」「オリジナル作ゼロ」という異例の状況になっているのでしょうか?

◆大物脚本家ですらオリジナル作は深夜帯

 その原因を探るとき、まず注目してほしいのは、今夏はヒットメーカーの脚本家が深夜帯でオリジナル作を手掛けること。

 これまで『ひよっこ』(NHK)、『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)、『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)などのヒット作を持つ岡田惠和さんは、金曜23時15分から放送される『セミオトコ』(テレビ朝日系、26日スタート)を。『ごちそうさん』(NHK)、『義母と娘のブルース』(TBS系)、『とんび』(TBS系)などのヒット作を持つ森下佳子さんは、土曜23時30分から放送される『だから私は推しました』(NHK)を手掛けます。

 どちらも意欲的なオリジナル作なのですが、二人はこれまでプライム帯のドラマばかり手がけてきただけに、「あれっ?」と思う人もいるでしょう。

 これは、制作サイドが、「岡田さんや森下さんほどの大物脚本家でも、『オリジナル作で勝負する』。あるいは『視聴率を気にせず伸び伸びと書いてもらう』なら深夜帯のほうがいい」と考えているからに他なりません。もともと夏は在宅率が低く、大型イベントの中継などで放送が飛び飛びになりやすいなど、視聴率が低迷しがちのため、各局ともに原作のある作品で安全策を採る傾向があります。

 さらに制作サイドを悩ませているのは、近年「知らないものに手を出さない」「原作が評判のいいドラマを選ぶ」という視聴者の安全志向が高まっていること。実際に、昨年放送されたオリジナル作を振り返りながら考えてみましょう。

『FINAL CUT』(フジテレビ系)、『anone』(日本テレビ系)、『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)、『もみ消して冬』(日本テレビ系)、『トドメの接吻』(日本テレビ系)、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)、『ヘッドハンター』(テレビ東京系)、『Missデビル』(日本テレビ系)、『崖っぷちホテル』(日本テレビ系)、『高嶺の花』(日本テレビ系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)、『僕らは奇跡でできている』(フジテレビ系)の12作は、すべて全話平均視聴率1桁に終わり、ネット上で大きく盛り上がった作品もありませんでした。

>>2以降に続きます

2019.07.13 07:00
https://www.news-postseven.com/archives/20190713_1410465.html