「目下、競馬界は大混乱で、調教師や厩舎関係者、騎手らが競走除外となった馬のオーナーへの謝罪に追われています。ただ、この件は調教師や騎手に責任はなく、全くおかしな話です」

 そう憤るのは元JRAトップ騎手の藤田伸二氏だ。6月15日、JRAは日本農産工業が販売した飼料添加物(馬用サプリメント)「グリーンカル」から禁止薬物のテオブロミンが検出されたと発表。同日と翌16日に出走予定の競走馬のうち、同社の添加物を摂取した可能性のある156頭が競走除外になった。

 競馬界ではこの前代未聞の騒動を巡り、“誰に責任があるのか?”で揺れている。

 競走馬が口にする飼料などは、所定の機関で禁止薬物を含んでいないかの検査を受けなくてはならない。今回は昨年12月以降、未検査のものが流通したとして、15日の会見でJRAは「検査済みでないものが出回っていたのが一番の問題」と、販売元を批判した。

「販売元の日本農産工業は、商品の全量回収を進める一方、『定期的に薬物検査を実施している』と反論。認識が食い違っている。

 同じ原材料と製造工程の『同一ロット』の製品なら検査は一度でいいという規程がある。今回の争点は問題の飼料添加物が、過去に検査を受けてOKだったものと『同一ロット』にあたるのかどうか。その定義を巡って両者が違った理解をしているようなのです」(競馬紙記者)

 改めて両者に問うと、日本農産工業もJRAも「調査中で回答を差し控える」とした。

 どちらの責任になるのか、当事者には重大な問題だ。

「急な競走除外で馬の調整が狂い、次のレースへの影響は避けられない。オーナーは補償を求めて声をあげることになる」(藤田氏)

 影響を受けた競走馬が多いだけに、巨額賠償になりかねない。アトム市川船橋法律事務所の高橋裕樹弁護士がいう。

「現時点では販売元に損害賠償責任があるように思えますが、156頭の特別出走手当(全ての出走馬に交付される手当。重賞の場合、約43万円)だけで約6500万円。獲得できたかもしれない賞金についての補償まで認められれば、数億円単位の賠償になる」

“審議ランプ”は灯ったままだ。

※週刊ポスト2019年7月5日号

2019.06.23 07:00
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