【桂春蝶の蝶々発止。】

 反社会勢力との交際疑惑で、吉本興業をクビになったカラテカ入江さんの報道で、「闇営業」という言葉を多く見かけるようになりました。

 私は「闇営業」という言い方をやめてほしいと思っています。

 何だか、闇の深いダークサイドな仕事とか思われそうです。「反社会勢力」と「闇営業」という言葉をセットに報道されたので、ヤバいところから斡旋(あっせん)される仕事を「闇営業」と勘違いされる方もいらっしゃるようで…(苦笑)。

 通称「闇営業」とは、所属事務所を通さない仕事のことです。われわれは事務所では「商品」ですが、血の通った人間です。旧友や恩人、家族など、さまざまな関係の中で依頼される仕事もあります。自分は大切だと思う仕事でも、事務所がまったく理解を示してくれないこともあります。

 私たちが受ける仕事は、大体、次の3つに分類されると思います。

 (1)所属事務所の仕事。

 (2)個人的な関係者からの依頼。

 (3)理念が一致した場合。

 この中で、(2)と(3)は闇営業と言われます。

 (2)の例としては、私の恩人の息子が結婚する。お祝いに落語をやってほしい。遠方なので、向こうは謝礼を出してくださるに違いない。でも、そんな確認はとらない。それを、いきなり「事務所を通してください」となんて言えないですよね。途端に話し合いがドライになり、関係が悪くなるからです。

 (3)は、ギャラは安くても、自分の経験値の向上や、今後の芸人人生のために「これは行っておきたい」という仕事です。私の場合、なかなか中央文化に触れることができない離島や、刑務所への慰問などで、落語を届ける仕事がそうでした。

 仮に、千載一遇がごとく、いいギャラの仕事が舞い込んできたとします。いつも潤沢に仕事がある芸人なら、事務所任せにするでしょう。でも、普段は事務所の仕事なんてない…いわゆる「飼われているのに、餌は与えられない」芸人が、その仕事に内緒で行く心理…これ一定の理解はできますよ。

 芸能事務所がすべて正しいかといえば、そんなことはない。芸人の主張が全部正しいともかぎらない。だから、お互いが胸襟を開いて話し合い、仕事のあり方をつくっていくことが大切です。

 闇営業という言葉は、所属事務所だけに「光」が当たっている言い方に見える。しかし、自身の生活の中にも大切にしたい人間関係の「ともしび」はございます。

 タニマチと言われる「お旦那」も必要。義理も人情も大切にしないといけない…。ん? おダンナ、ギリ、ニンジョー。

 あっ、「闇営業」という言い方はやめて、事務所を通さない仕事を「オダギリジョー」って言えばどうかな?(笑)。

 ■桂春蝶(かつら・しゅんちょう) かつら・しゅんちょう 1975年、大阪府生まれ。父、二代目桂春蝶の死をきっかけに、落語家になることを決意。94年、三代目桂春団治に入門。2009年「三代目桂春蝶」襲名。明るく華のある芸風で人気。人情噺(ばなし)の古典から、新作までこなす。14年、大阪市の「咲くやこの花賞」受賞。

6/18(火) 16:56配信
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