2018〜19年シーズンの米プロバスケットボールNBA王者を決めるファイナル(決勝)で、トロント・ラプターズが初優勝を果たした。6月13日、3勝2敗と王手をかけて迎えた敵地での第6戦で、3連覇を狙ったゴールデンステート・ウォリアーズを114-110で撃破。ラプターズは創立24年目にして頂点に立ち、カナダに本拠地を置くチームの初栄冠として歴史に刻まれた。


「とてつもない12カ月だった」。今季最後の戦いを終えて、ニック・ナース・ヘッドコーチ(HC)は感慨深げにそう述べた。長い道のりを考えれば、「12カ月」を「24年」に置き換えても間違いではないだろう。

ラプターズは1990年代にNBAが発展する中、カナダでの市場開拓を意識して新設された2チームのうちの1つ。過去にビンス・カーター、クリス・ボッシュといったスター選手を擁したものの、栄光ある歴史を積み重ねてきたとは言いがたい。昨季まで優勝はおろか、ファイナル進出経験もゼロ。長い低迷期を経て、2014年から今季まで6季連続ポストシーズン出場を果たしたものの、プレーオフでの上位進出はかなわなかった。

■ウジリGMの「ギャンブル補強」的中

そんな中、アフリカ出身者としては米四大スポーツ史上初のゼネラルマネジャー(GM)でもあるマサイ・ウジリ氏(現球団社長)が実行した大改革がチームを変えた。昨オフ、長年のエースだったデマー・デローザンを放出し、代わりにカワイ・レナードを獲得。ケガをする前はリーグトップ5の選手とも評されたレナードだが、ケガで昨季は9試合の出場にとどまったこと、契約は今季限りであること、当初はカナダへの移籍に難色を示したと伝えられたことなどから、トレードはギャンブルと目された。この補強策をまとめたウジリ氏に対する批判の声も少なくなかった。

しかし、新エースとなったレナードは期待通りにシーズン中に自己最高の平均得点をマークし、瞬く間にカナダの英雄となった。活躍はポストシーズンでも続き、今プレーオフは通算24試合で平均30.5得点、9.1リバウンド。常に冷静沈着なレナードの影響力は絶大で、チーム最古参のカイル・ラウリーは「これまでとは違う姿勢をチームに植え付けてくれた」と称賛する。ウォリアーズはファイナルでもケガ人続出に苦しんだとはいえ、ラプターズの王者を圧倒するほどの強さでの勝利は、シリーズMVPに選ばれたレナードの活躍と存在感なしにはありえなかった。

■カナダ国民の56%がファイナル視聴

こうして快進撃を続けたラプターズを、これまで「アイスホッケーの国」として知られてきたカナダの人々も熱狂的にサポートした。試合中はアリーナ周辺に多くのファンが集まり、設置された大型スクリーンでラプターズに声援を送る姿が名物になった。AP通信の発表によると、なんとカナダ国民の56%がファイナルのゲームを何らかの形で視聴したという。

「僕たちは歴史を創ったんだ」。ファイナル終了後、レナードが残したそんな言葉も大げさとはいえない。現代最強のチームで「王朝」と見なされたウォリアーズを崩した勝利の価値は莫大。レナードの勝負強さと、ウジリ氏の大胆な"ギャンブル補強"の成功が忘れられることはない。ラプターズとカナダバスケットボールの歴史を塗り替えた18〜19年シーズンは、これからも永遠に語り継がれていくことだろう。

スポーツライター 杉浦大介

2019/6/17 6:30
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