「羅生門」は芥川の原作「藪の中」では霊媒に語られる、武士の自害で
物語が締めくくられている。

小説は、一つの事象に対して様々な証言があれど、そちらを主力に
描くと、ただの犯人探しゲームになってしまうので、一ヒネリして誰もが
「殺したのは私だ」という、普通の「私は殺してない」的な犯人探しとは
逆の証言にさせている。

小説のテーマは結局「人は自分の視点からしか物事を見ていない」
ことだと思う。

黒澤はその原作から更に、事件による人間不信の感情を極限に高めた
あとに、杣瓜のささやかな決断による「人を信じられる」道筋への光明が
現れる物語に昇華させている。

結局、「犯人は誰なのか」は、芥川にしても黒澤にしても、物語を牽引
させるためのマクガフィン(惹き付け用の目くらまし効果)だったのかも
知れないよ。