友人達と家庭の味について振り返った際のことを、向田邦子はこう綴っている。

〈その時、辣腕で聞えたテレビのプロデューサー氏が、「おふくろの作ったカレーだな」と呟いた。「コマ切れの入った、うどん粉で固めたようなのでしょ?」といったら、「うん……」と答えたその目が潤(うる)んでいた〉(「昔カレー」)

 カレーの匂いに家族の肖像を見ていたのが向田なら、鶏の唐揚げに母親からの愛を感じていたのが他ならぬ貴乃花(46)だった。3月下旬に出演した日テレの特番でこう語ったのだ。

「好物を聞かれて唐揚げって言っていたのは、実はお母さんのことが好きですって意味なんです」

 他にも、瀬戸内寂聴に勧められて絵本作家の道を歩くことにした、テーマは家族愛で「両親、兄にありがとう」という思いを込めたなどと、口にしている。
母・紀子(71)=本名・藤田憲子=、兄・虎上(まさる)(48)と没交渉になって10年は優に経過しているし、昨秋、貴乃花が妻・河野景子と離婚、息子の優一も離婚と、世にも珍しいダブル離婚劇を演じたばかり。
この平成の大横綱のコメントをどう受け止めるべきか、耳を疑った視聴者も少なくなかろう。

 平成のあいだ、土俵外での花田ファミリーは笑顔というよりはむしろ、四つの離婚に絶縁・洗脳・不倫・相続などの各種騒動に彩られてきた。
その中心にはいつも貴乃花がいたわけで、そんな当人が家族をポジティブに語る時、主役のヤクザの親分をたこ八郎にオファーするようなミスキャスト具合を、視聴者は感じ取ったのかもしれない。

 あるいは、かつて〈貴乃花衝撃告白3時間「全ての元凶はオフクロなんです」〉(週刊文春2005年6月16日号)という身も蓋もないタイトルの手記を寄せていた人が、そこまで変わることができるのだろうか。

「特に進展はない」
 手記には、紀子が不倫相手とされる男を部屋に上げて、平然とチャンコを振る舞っていたという件(くだり)がある。土俵が相撲の魂ならば、チャンコは相撲の鑑であり、守るべきものを汚された思いだったのだろう。

 貴乃花に近い角界関係者はこう明かす。

「絵本作家への想いは本気で、ただ、テーマが家族愛となると家族との『不仲イメージ』が足かせになるから、和解を打ち出し始めたんです。今後、日テレと組み、『ファミリー和解』特番の展開が噂されています」

 ある後援者が続けて、

「“(相撲)協会を辞めて景子とも別れたし、これからは家族を大切にしたいです”と話していました。2人の娘はそれこそ眼の中に入れても痛くない可愛がりようですが、景子さんと息子の優一は別ということです」

 もっとも、

「貴乃花との和解に紀子さんはノリノリのようですが、虎上さんは消極的。『弟のビジネス』に使われることをよく思っていないのでしょう。少なくとも日テレの番組放送時点で、紀子さんの耳に和解話は入っていませんでした」

 メディアを通じ、家族和解を呼びかけるとはこの人らしいといえばそれまでだが、日テレ幹部が「1本のギャラは100万円を下らない」と明かすように、そして先に虎上が警戒したように、「ビジネス」の匂いが漂ってくる。

 日テレの特番と言えば、“愛は地球を救う”の24時間テレビ。今年のメイン会場並びに恒例のマラソンのゴール地点は、例年と違って両国国技館に設定されている。
貴乃花は年明けから日テレ特番に複数出演しており、同局は「番組制作の詳細についてはお答えしておりません」と回答するが、両者の蜜月は24時間テレビにも貴乃花は絡んでくる――そう疑わせるに十分だ。

 虎上に聞くと、事務所代表の妻を通じ、

「(家族の和解について)特に進展はないので、お答えすることはないんです」

 と回答。紀子は対照的に、

「デリケートな話題なので、慎重に、自然の成り行きに任せていきたいと思います。もちろん和解できた方がいいですし、いい方向に進んでいけばと思います」

 と前向きに受け止めるものの、「和解特番」については、こう本音を吐露する。

「そもそも日テレ側からオファーは来ていません。また、仮にオファーがあったとして、(テレビ番組のような場で)それをするのがいいのか、悪いのかという問題もあるかなと……」

http://news.livedoor.com/article/detail/16381142/
2019年4月27日 8時1分 デイリー新潮