世間を騒がせる薬物事件の最新事情は――。先月末、警察庁は2018年の大麻事件の摘発者が3578人(前年比570人増)で過去最多を更新したと発表。大麻は人口10万人当たりで14年の1・7人から3・5人に倍増した。一方、ピエール瀧被告(51)で注目されたコカインでの摘発者も197人(同20人増)で過去最多に。一部で「コカインは覚醒剤より安価になった」との報道もあるが、最近の状況を追うと、そうとは言い切れない実態があった。

 警察庁の最新のデータによると、大麻は特に10代、20代の摘発者の伸びが大きく、若年層への浸透の深刻化が浮き彫りになった。警察庁は「有害性の認識が低く、安易に手を出している。若年層の乱用拡大が懸念される」としている。

 薬物事件全体の摘発は1万3862人。最多の覚醒剤は9868人で微減したが、大麻は覚醒剤に次いで多く、全体の25・8%を占めた。197人のコカインは14年の61人から3倍以上の伸びになった。

 薬物別の押収量は覚醒剤が3年連続で1トンを超え、約1138・6キロ。コカインも前年9・6キロから42・0キロに急増。MDMAなどの合成麻薬は1万2303錠だった。

 ミュージシャン兼俳優のピエール瀧被告がコカインの使用で逮捕されたことに象徴されるように、以前は日本では比較的なじみのなかったコカインが増え続けている。

 薬物事情通が説明する。「以前から日本はコカインの中継所でした。コロンビアなど南米で生産されますが、最大の消費地・米国はコカインに対する監視の目が厳しく、摘発も手慣れたもので、南米↓メキシコから米国に密輸するのは困難。そこで、コカイン摘発のノウハウが確立されていなかった日本の空港を経由するパターンも多い。地方の空港は大型X線検査設備がなかったり、コカインを嗅ぎ取る麻薬探知犬も不十分だった。ただ、最近はコカイン摘発のノウハウが確立されたので、摘発が増えています」

 一方、日本は「ヒロポン」が合法だった戦後初期から、覚醒剤が浸透している。コカインは鼻から粉を摂取したり、歯茎にすりつけたりするが、日本人の体質には合わないらしく、粘膜がひどくただれてしまうこともあり、長らく不人気だった。

「六本木のクラブ周辺で欧米人向けに密売人が暗躍していますが、数年前までは彼らを逮捕しても『日本人には売れない』と話していた。コカインと覚醒剤は同じアッパー系で、それなら日本人は効果の持続時間も効き目も強い覚醒剤を使うというわけです」(同)

 しかし、日本は中継地点としてコカインが通り続けていたため、確実にその一部が国内に流入していた。

「手に入ってしまうわけですから、麻薬や覚醒剤乱用者らがコカインに手を出すようになったんです。そこで、暴力団もコカインを扱うようになり、国内の需要が増えたようです。どう需要を増やしたかというと、覚醒剤の乱用者に売りつけた。乱用者はどうしても、耐性がついていき、使用量が増える。そこで、覚醒剤の使用の間にコカインを挟んだり、コカインと覚醒剤を混ぜたものを使ったりするようになってきたんです」(同事情通)

 そのため、コカインの使用者は、かなり深刻な薬物・覚醒剤乱用者であるケースが多いという。

 医療関係者は「覚醒剤中毒の果てにコカインにまで手を出す“多剤乱用者”なわけですから、コカインの使用者は、ぶっ壊れている人が目立ちます。薬物の治療施設にいた患者は、机の上にきな粉をまいて、紙でトントンとやりながら細長い筋状に整え、鼻できれいに吸い取って、ゴホゴホせき込んでいました。そこまでして、やりたいんですね」と指摘する。

 警察庁の18年調査での1グラム当たりの末端価格は、覚醒剤6万円、大麻5000円、コカイン2万円、ヘロイン3万円。“セレブドラッグ”といわれるコカインは覚醒剤と比べて単価は安いが、あくまで表面上の話だ。

 覚醒剤は一回の使用量が0・02グラムといわれ、一日1回か2回。ところが、作用時間の短いコカインは何度も使うため、一日の使用量は0・1グラムにもなる。

 トータルコストを考えた場合、結果的にはコカインのほうが高くつくようだ。


2019年04月16日 11時00分
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/news/1354455/