3月25日の「報道ステーション」(テレビ朝日系)を見ていたら、ニュースの中に、突如、かつてスプーン曲げなどの芸で「超能力者」としてもてはやされたユリ・ゲラー氏の映像が出てきた。

 若い女性アナウンサーが原稿を読み上げる。

「スプーン曲げで知られるユリ・ゲラーさんが、超能力を使ってイギリスのEU=ヨーロッパ連合からの離脱を阻止すると宣言しました。現地メディアによると、ゲラーさんは、毎日、午前11時11分と午後11時11分にメイ首相にテレパシーを送っているといいます」(この日のニュース原稿は、昨日まではテレ朝のホームページに掲載されていたが、なぜか今日には本件の原稿のみが削除されていた)

 あきれ果てた。

 バラエティ番組なら、分からないではない。50代以上の芸能人が、かつてテレビでスプーン曲げやら壊れた時計を直すという「超能力」にハマった体験をおもしろおかしく語り、若手のタレントがそれをからかう、というトークが成立するだろう。

 しかし、報ステは(一応)報道番組を標榜しているのではないか。それなのに、天皇皇后両陛下が京都で即位30年を記念した茶会を開かれたことや、中3の女の子が大麻所持で逮捕された事件などと同列に、これを「ストレートニュース」として伝えるというのは、いったいどういう了見なのだろうか。

 その5日前は、地下鉄サリン事件から24年目の日だった。オウム事件で13人の死刑が執行されて、最初の3月20日。テレビ朝日でも報道したのではないか。

 オウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫は、空中浮揚をする「超能力者」としてメディアにデビューした。最初の著書のタイトルは、「超能力『秘密の開発法』――すべてが思いのままになる」だ。

 そして、彼が「超能力」を持つ「最終解脱者」と信じた人たちによって、一連の事件は起こされた。

 この事件を振り返る時、ゲラー氏のスプーン曲げによって「超能力」ブームを盛り上げ、さらには教団をお茶の間に広めたテレビの問題を見過ごすことはできない。テレビ朝日はいったい何を考えているのだろう、と思った。

オカルトブームの土壌を作ったテレビ
 くだんのユリ・ゲラー氏のスプーン曲げは、「超能力」でもなんでもない。そのことは、たとえば、安齋育郎・立命館大学名誉教授が長年、実演つきの授業や講演会で、そのトリックを明かし、手品であることを示してきた通りである(その実演は、ネットで映像で見ることもできる)

 このゲラー氏を、日本で初めて取り上げたのは、1974年3月7日、日本テレビ「木曜スペシャル」だった。スマホもネットもなかった時代。テレビは、子供たちに強い影響を与えるメディアだった。そのテレビでは、やがて、投げ上げたスプーンを空中で曲げることができるという、日本の「エスパー少年」も登場した(後にインチキであることが、週刊誌にバラされた)。

 テレビでは「超能力」のほか、ヒマラヤの雪男やネス湖のネッシーなどの未確認動物やUFO(未確認飛行物体)、古代文明の謎なども流され、オカルトブームの土壌を作った。

 この頃、小松左京のSF小説「日本沈没」と五島勉の「ノストラダムスの大予言」がベストセラーになり、映画化されて大ヒット。1974年の邦画興行収入1位と2位を占めた(ちなみに洋画のトップはオカルト映画「エクソシスト」だった)。とりわけノストラダムスはテレビ番組でも盛んに取り上げられ、子どもたちに大きな影響を与えた。

 「ちびまる子ちゃん」シリーズで知られる漫画家さくらももこさんは、当時、小学生。まる子ちゃんたちが教室でスプーン曲げに熱中する姿を描き、エッセイ集「まる子だった」の中でも、この頃の子供がいかにノストラダムスやこっくりさん占いなどに影響されていたかを書いている。

江川紹子 | ジャーナリスト
3/27(水) 18:13 全文掲載
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20190327-00119852/