“頼れるフリーキッカー”の不在は日本代表の課題として指摘されるが、今回のアジアカップでも優勝を狙う上で1つのネックになるかもしれない。現地12日まで21試合を終えたが、“得点全体の40%はセットプレー”と言われる最近の傾向の例に漏れず、今大会でもセットプレーからの得点が多い。

 オーストラリアがヨルダンに0-1で敗れた試合もヨルダン唯一の得点はCKから。韓国が2戦目で苦しみながらキルギスに1-0で勝利した得点もホン・チョルのCKからDFキム・ミンジェがヘディングシュートで決めた形だ。

 “ボールの軌道が伸びやすい”と選手たちからも指摘される公式球の影響もあってか、今大会は特に直接FKのゴールも目立っており、とりわけ優勝を狙える強国は必ずと言っていいほど強力な直接FKのキッカーを擁している。優勝候補の筆頭格と言えるイランはキャプテンのアシュカン・デジャガが強力な右足のFKを誇る。5-0と大勝したイエメン戦で壁の横を抜けて決まった、右ポストの内側を叩いたゴールはGKに当たってゴールラインを割ったため、一度はオウンゴールと判定されたが、結局デジャガのゴールと認められた。

 2022年ワールドカップの開催国であるカタールはセンターバックのバッサム・アル・ラウィが強力な右足のFKをレバノンのゴールに突き刺した。イラクのアリ・アドナンは成長著しいベトナムと2-2で迎えた試合終了間際にペナルティエリアの右手前でFKのチャンスを得ると、左足で壁の頭上を抜き、ゴール右隅に吸い込まれる芸術的なキックでチームに劇的な勝利をもたらした。

 日本とグループリーグ3試合目で対戦するウズベキスタンは、キャプテンのオディル・アフメドフがオマーン戦で鋭い右足の直接FKを壁の下からゴール右に決めた。サウジアラビアのフセイン・アル・モカハウィが北朝鮮戦で左のワイドから狙ったFKは、エリア内の混戦でDFモハメド・アル・ファティルがヒールに当てて方向を変えてゴールに結びついた。アル・モカハウィのゴールとはならなかったが、FKのスペシャリストとしての価値を証明するアシストだった。

 今大会ですでに結果を出している選手の他にも、北海道コンサドーレ札幌に在籍するタイのチャナティップ・ソンクラシン、元ヴィッセル神戸で韓国のチョン・ウヨン、中国のハオ・ジュンミン、UAEのアフメド・ハリルなどは大会中のFKゴールが十分に期待できるスペシャリストたちだ。

 だが、現在の日本代表には、そうした頼れるキッカーが見当たらない。

そもそも、2013年9月のグアテマラ戦で遠藤保仁が決めてから長らく直接FKのゴールはなかった。アジアカップ前の最後のフレンドリーマッチとなったキルギス戦で原口元気が5年ぶりのFKゴールを決めて話題になったが、GKの明らかなミスに助けられた形で、原口本人も「カウントしないで」と苦笑いで語った。

 CKや間接的なFKからのゴールはここ最近でもいくつかある。ロシアワールドカップのコロンビア戦では、本田圭佑が蹴ったボールを大迫勇也がヘッドで合わせて決めて「大迫半端ないって」を日本中に流行させるきっかけとなった。しかし、そのキッカーだった本田はもう日本代表にいない。昨年9月のコスタリカ戦では佐々木翔のヘッドがオウンゴールを誘い、11月のベネズエラ戦では遠目のFKから酒井宏樹が豪快なボレーシュートで彼自身のA代表初ゴールを記録したが、両得点のキッカーだった中島翔哉(ポルティモネンセ)は大会直前に行われたポルトガルリーグのベンフィカ戦で右下腿を痛め、一度はチームに合流したものの無念の離脱となってしまった。


 守備を固めてきた相手を流れの中で崩すのは気持ちがいいものだが、ここから6試合もそううまくはいかないだろう。その中でセットプレーからの得点は求められてくる。左利きの堂安も質の高いキックを持っており、きっかけを掴めばスペシャリストとして台頭するポテンシャルはある。

柴崎もロシアワールドカップ前の最後のテストマッチとなったパラグアイ戦では、鋭い軌道で相手のオウンゴールを誘った。キックのフィーリングが合ってくれば、セットプレーからの得点の可能性は高まるはずだ。また、追加招集された塩谷司もFKから直接ゴールを狙える能力を備えており、チャンスがあれば期待したい。

 ここから6試合を勝ち進んで行く道のりを想定すれば、セットプレーの得点がチームを助けるようなシチュエーションも出てくるだろう。PKでも、オウンゴールでも、ゴールはゴールなので、結局どんな形でも良いのだが、上位を目指すライバルたちがFKのスペシャリストを擁している中で、日本代表もなんとか武器にしていきたいが……。(文・河治良幸)

1/13(日) 16:00配信 AERA
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