広島を離れ、巨人入りを決断した丸佳浩外野手(29)の周辺がかまびすしい。大きな契約が絡む人気ライバル球団への移籍。しかも2年連続MVPを誇る
屈指の強打者だけに、さまざまな記事や反応がメディアやネット上をにぎわせる。

 ただし移籍理由を巡っては、看過できない臆測や中傷が少なくない。何も事情を知らない他球団のOBが「間違いなくお金」と言い切り、同調して
「裏切り者」などと批判する声も散見する。その度に、担当記者としては強い違和感を覚える。

 確かに、広島との残留交渉は折り合いがつかなかった。ただし、その事実のみで、丸がお金を取ったと断じるのは不適切だ。彼は、地方球団の経営事情を
理解していた。4年総額17億円の提示が、どれほどの意味を持つか…も知っていた。

 そうした前提を受け入れ、歩み寄れるであろう範囲でいくらかの上積みを求めた。移籍ありき…ではなく、残留を第一に考えていたからだ。広島では
今季以降、主力にFA権取得が続く。自身の契約が前例になるだけに安易な妥協はできず、ギリギリの交渉だった。

 同じことが球団側にも言える。長期契約の高年俸選手を複数抱えると、経営を圧迫し、チームに悪影響を及ぼす可能性がある。年俸水準が高騰する
球界の現実に逆行するとしても、地方都市で健全に興行を続けるために、リスクを排除したい考えは理解できる。

 結果、交渉はまとまらなかった。球団は最初に提示した条件を変えない方針を貫き、丸が希望した歩み寄ってもらいたい開きは埋まらなかった。それでも
彼は、我慢して受け入れるべきか思案した。お金が移籍理由なら、そこまで悩まない。

 巨人移籍を表明した11月30日。マツダスタジアムを訪れた丸は、決断を報告する中で印象に残った言葉を問われ「新井さんから“寂しいけど、
丸の味方だから応援しているし、頑張れ”という言葉をいただいた」と話し、一瞬だけ瞳を潤ませた。心根がにじみ出ていた。

 決断前にフッと漏らした言葉が耳に残る。「巨人に行ったら、ボクは裏切り者になるんでしょうね……」。言うまでもなく、プロの評価は金銭だ。
今回の大型契約は、丸自身が頑張った証であり、勲章でもある。リーグ3連覇に貢献し、権利を得て、悩んだ末に新たな道を選んだら、いわれのない中傷を
受ける。何ともやりきれない。

 丸は強い。決断した以上は切り替えて、新天地に好影響を及ぼすだろう。何より練習熱心。成績はもちろん、姿勢がもたらすチームへの波及効果だって
小さくないはず。それこそが強いカープの中核を担った値打ちだ。

 広島ファンには、私自身もそうだが、残念な結果になった。それでも、丸がチームに大きな功績を残した事実は消えない。来季開幕は巨人3連戦。
拍手とまでは言わない。どうかブーイングの起きないマツダスタジアムであってほしいと願う。(記者コラム・江尾 卓也)

スポニチ
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