現在、30代後半以上の日本人ならば、彼の名前を知らない人のほうが少ないのではないだろうか。

80〜90年代、人気番組の『世界まるごとHOWマッチ』や『関口宏のサンデーモーニング』のほか、
ドラマや映画にも盛んに出演していたアメリカ人、ケント・ギルバート(66)のことである。

1952年アイダホ州生まれのユタ州育ち。端正なマスクと、流暢で知的な日本語の語り口を武器に、
往年の「外タレ(外国人タレント)」ブームを牽引するお茶の間の顔だった。

だが、1997年頃の『サンモニ』の降板以降、テレビで彼の姿を見る機会は減った。
もはや「あの人は今」的な存在となって久しい──はずだったが。

近年になって、初老を迎えたギルバートは意外な再ブレイクを果たした。『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所、以下『GHQ』)、
『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』(KADOKAWA)など、日本の保守派に寄り添う論調の著書で次々とヒットを飛ばすようになったのだ。

なかでも2017年2月に出版された『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社、以下『儒教』)は、電子書籍版と合わせて51万部もの版を重ねた。
日本人の「高い道徳規範」を称賛し、「非常識」な儒教国家である中国・韓国・北朝鮮に立ち向かうことを説いた同書は、
2017年の年間ベストセラーの第6位に入る健闘ぶりだ(出版取次最大手・日本出版販売調べ)。

他にも小学館や宝島社など有名出版社から著書を出し、2017年だけでも12冊以上、2018年も9月末までに12冊以上を出版(共著含む)。
書店の店頭で彼の名前を見ない日はない。とどまるところを知らぬ勢いは、まさに「ギルバート現象」と呼ぶにふさわしい。

そんな彼の主張の根幹を成すのは、日本人が敗戦後に「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)」
と称する連合国軍総司令部(GHQ)の洗脳工作を受け、それが現代の日本の政治や社会に問題をもたらしているとする歴史観である。

例えば彼はこう主張する。

「(GHQは)日本人を徹底的に洗脳し、武士道や滅私奉公の精神、皇室への誇り、
そして、それらに支えられた道徳心を徹底的に破壊することで、日本人の『精神の奴隷化』を図ろうと試みたのです」

「GHQが去った後(中略)、『精神の奴隷化』政策を継続したのは、日本の政治家と教育界、そして左傾化したマスコミです」(以上、『GHQ』)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/10/post-11174_1.php
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