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「この投球数は、将来を考えれば決していいことではない」

 金足農(秋田)のエース吉田輝星についてこう言うのは、巨人、中大などプロアマ双方で指導者経験がある評論家の高橋善正氏だ。

 吉田は21日の決勝・大阪桐蔭戦で132球を投げて12失点、5回で無念の降板。秋田県勢では1915年の第1回大会以来、実に103年ぶりの決勝進出にチームを導いたものの、深紅の優勝旗には手が届かなかった。

 ドラフト1位候補にも挙げられる右腕は、今大会で計881球を投じた。地方大会の全5試合も完投しており、このベラボーな投球数を問題視する声が上がり始めているのだ。

■15人中3人

 1990年以降、夏の甲子園で活躍した投手の総投球数のデータを見ると、吉田はすでに上位に食い込んでいることがわかる(別表参照)。1大会で650球以上投げた投手15人の中で、プロでも目覚ましい活躍をしたのは、松坂大輔(現中日)と田中将大(現ヤンキース)、02年の新人王を獲得した正田樹くらい。高校時代の登板過多がたたってその後サッパリだったり、プロから見向きもされなかった投手がほとんどだ。

 ここまで9人で戦ってきた金足農は吉田以外に頼れる投手がいないとはいえ、本人は3回戦の横浜戦後に「朝、股関節が痛くて先発を辞退しようと思ったほど」と告白している。登板過多が股関節をむしばんでいることは想像に難くない。

 10年夏に783球を投げて春夏連覇を成し遂げた島袋洋奨(興南=現ソフトバンク)は卒業後、中大に進学。この島袋を1年時に監督として指導した前出の高橋氏はこう言う。

「島袋は高校時代、1週間に2〜3回は300球の投げ込みをしていた。大学1年時にすでに筋力はできていたし、スタミナもあった。本人の話では、中学の時に肘を痛めたことはあったが、高校時代にケガをしたことはないと。それでも入学時には左肩に軽い炎症があったため、連投は避けるなど起用法には極力、気を使いました。今の若い子たちは20歳あたりでちょうど大人の体になるという。高校生という成長過程での酷使は非常に負担が大きいのです」

 島袋は14年のドラフトでプロ入りするもここまで勝ち星がないのは、高校時代の投げ過ぎと無関係ではないだろう。

 高橋氏はさらに、吉田が股関節を痛めている点を危惧する。

「股関節は体で最も大きな関節で、立つ、歩くなどの運動をする上での要です。投手で言えば、股関節は肩、肘よりも重要といっていい。投手は、股関節を回転させながら投げる。下半身を支え、上半身を使うためのいわば“蝶番”の役割を果たす。股関節をうまく使うことによって下半身に粘りが出て、間が取れる。股関節が使えないと突っ立った状態で投げるしかない。股関節痛は、将来を考えると極めて危険といえます」

 甲子園で勝てば勝つほど、投げれば投げるほど肩肘は消耗する。おまけに投手にとって何より重要な股関節までおかしくしてしまえば、取り返しのつかないことになりかねない。

8/22(水) 9:26
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